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第15話
「で、話ってなんなんですか。…俺もう帰りたいんですけど」
とりあえず古賀の隣に腰掛け早く帰りたいという思いから要件を催促する。
「素っ気ない態度だな。新入りが」
(あんたにはね!!)
古賀の言葉に心の中でツッコミながら感情の籠っていないすみませんを付け加えた。
「とりあえず今ここで話しておかないと今後に支障が出るようなことをお前に伝えておく」
バーテンが藤堂の元に酒を置くと古賀は2本目のタバコに火をつけ、静かに語りだす。
「で、その支障になることって?」
藤堂がグラスを持ち軽く口をつけた後、古賀の次の言葉に耳を傾ける。
「明蘭の煌晻(コウアン)という男には気をつけろ」
古賀のその一言に藤堂の動きが止まった。
次の言葉が上手く出てこず、藤堂がしどろもどろしていると古賀がため息をついて話を続けた。
「新人のお前に最初の的が煌晻だなんて想像もつかなかった。…お前には荷が重すぎるかもしれない」
もしかしたらこの場で事件の担当を降ろされる。
藤堂はそう悟った。
(新人だから急に俺はお荷物扱いかよ)
ここ数日の行動を思い返すとなんだか異様にムシャクシャしてきた。
(腹立つ…この数日間、俺がどんだけ苦労して雑用こなしたと思ってんだ)
酒をあおりながら飲み干したグラスを机に置くと藤堂は黙っている古賀に向けてこう言い放つ。
「じゃあその煌晻って奴をどうにかすれば俺はあんたからの新人扱いから解放されます?」
その言葉に古賀は鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔をする。
「俺はですね古賀さん、あんたとバディを組んだその日から何がなんでもムカつくあんたを越えてやるって決めたんすよ。んなところで急に新人はお荷物になるから事件から外します?…なーにふざけたこと言ってんだって感じですよ」
「いや、そこまでは言ってな」
「大体、あんたの始末書だの報告書だのの雑務全般をやってんのは誰だと思ってんすか!俺ですよ!新人のやることは小さなことからコツコツ積立だよ。まずは雑務こなしてこうねって事ですか?…はっ、マジで腹立つ」
古賀の言葉を遮る勢いで藤堂は不平不満を本人の前でご丁寧に撒き散らしていく。
グチグチと自分に対する不満を言われ古賀は煽り酒を繰り返す藤堂を見てなるほどと思う。
そう。藤堂は酒に滅法弱かった。度数の高い酒とこの店の雰囲気がプラシーボ効果を与え、回りを早くしていた。
「今日だって1人でフラフラ何処かに消えて処理は全部俺任せ…仕事終わりの飯すら食えず仕舞いで」
そう言って藤堂も瞳には次第に涙が溜まっていく。
鼻も耳も真っ赤になった藤堂を見て古賀は思わず笑ってしまう。
「っく…ははっ、ひでぇ顔」
「誰のせいですかぁ!もう一杯ください!!」
呻き声をあげて机に突っ伏し啜り泣く藤堂の背中を摩り慰める古賀。
「俺だな…マスター、作らなくていい」
「そうですよ。アンタのせいで…俺の」
「俺の?」
古賀は藤堂の言葉に聞き返すとマスターから水を受け取り彼の前に静かに置こうとする。
「俺のファーストキスまで奪われたんですからね」
その言葉に古賀が驚き持っていた水をその場にこぼしてしまい、見事に藤堂のスーツにかかった。
「何、古賀さんこの子の事食べちゃったの?」
「食べてない。任務で仕方なくだ」
食い気味に聞いてくるマスターの言葉を否定し、延々と喋る藤堂を無視してスーツに溢れた水を丁寧に拭き取る。
「俺あの時が初めてだったのに、あんなキスされて…頭がぼぅっとして、足に力入らなくなるし」
「おい、喋るな」
「命令しないでください!…あの日の事が頭から離れなくて困ってるんですから」
そこまで言われると聞いてるこちらの方が恥ずかしくなる。
古賀は楽しそうに笑い藤堂の話を聞くマスターに会計を頼み喋り続けるその口を片手で塞ぐ。
「わかったからもう喋るな。店出るぞ」
半ば無理やりに藤堂を立たせ、足早に店を出るとそのまま古賀は夜道を歩きある場所へと連れて行くのだった。
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