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第28話
藤堂は隣室へと梶を通し座らせると冷えたお茶を彼の前に置いた。
「…すみません。皆さん会議に出てて」
「なるほどね―…」
そう言って梶は出された茶を喉を鳴らしながら飲みだす。
「……っぷは。外暑すぎ…」
「天気いいですもんね。古賀さんか赤羽さんに用事ですか?」
藤堂の言葉に頷くと用意した茶菓子に手を伸ばす。
「藤堂はお留守番してるの?」
年下の彼のタメ口にもこの数ヶ月で慣れてしまった。
(言っても直してもらえないし…)
「…まぁ。そうですね」
歯切れの悪い返事をする藤堂を見て梶が理解したのか、なるほどといった感じに手を叩いた。
「んで、体調は?あの薬直に吸うと結構やばいんでしょ?」
「……今のところは特に」
「ふーん、対処が早かったからかな?…まぁ、ここの最大級の洗礼浴びたって感じだね」
「面目ない限りです」
ドライな声掛けをする梶が今の藤堂にとっては心地よく感じた。
「みんな帰ってくるの遅いだろうし買ってきたシュークリーム食べようよ」
そう言って立ち上がり、課の冷蔵庫へと向かう梶を藤堂が止める。
「そ、そんな!皆さん食べてないのに先にいただくなんて出来ないですよ」
「いーの、俺が買ってきたものだし。…どれにしよっかな〜」
藤堂の忠告を無視して机に置いてある箱を開けると、バラエティ豊かなシュークリームを眺めてはどれがいいか聞いてくる。
「藤堂は?何が好き?」
(すみません皆さん…お先にいただきます)
箱の中身を見せながら種類を連呼する梶に藤堂は仕方ないと諦めると心の中で謝罪をしてから2人で中身を覗いた。
「いっぱいあるから好きなの食べな。…俺クッキーアンドクリーム」
「…じゃあいちごで」
「ふーん、いちごすきなの?」
そう言うといちごのシュークリームを梶が手のひらに乗せてくれる。
「……な、内緒にしてくださいよ?」
不敵な笑みをこちらに向けて面白がる梶に藤堂ははにかみ照れながら彼に口止めをした。
「なるほど。古賀さんはこれに弱いのか」
梶が驚いた顔をしたかと思えば小声で呟きながら考え込んでしまい、何かまた地雷を踏んでしまったのかと焦る藤堂。
「や、やっぱり変えましょうか…!」
「…え?好きなんでしょ?食べな。こっちの話だから気にしないで」
そう言って微笑む梶に藤堂は頷くと一緒に持ってきてくれたペーパープレートを取り出し、その上に静かに頂いたものを乗せる。
(梶さんに慰められてる気がする…)
自分よりも梶の方が精神的にもしっかりしており、なんだか虚しくなった。
「…なに泣きそうな顔してるの」
「梶さんの方が大人だなと思ったら虚しくて…」
「まぁ、社会人経験は俺の方が長いんじゃない。…藤堂はそのままでいた方が良いよ」
そう言うと早く食べようと先程の席へと戻り藤堂を急かす。
機嫌を損ねてしまう前に藤堂は梶の元へ戻り、2人でシュークリームを頬張った。
シュワシュワとした生地に濃厚なクリームがふんだんに詰め込まれていて疲れた身体に染み込む様に幸福感が広がっていく。
「…美味しいですね!」
大きな瞳を丸くしながらキラキラと輝かせる藤堂を梶は笑いながら見つめた。
「気に入って貰えた様でなにより。…クリーム、口の端に付いてるよ」
「え、すみません」
梶の注意に恥ずかしくなり急いで拭おうとするとその前に彼の腕がこちらへと伸び、白く長い親指で拭われた。
そしてそれを何も思わず舌で舐める。
「いちごもまぁまぁだね」
(……サラッとこういう事するんだもんな、この子)
その姿がとても絵になり藤堂は同世代の女の子であったら確実に落とされてるなと考えながら見惚れた。
「梶さんってモテるって言われません?」
藤堂の言葉に最後の一口を食べ終えた梶が不思議そうな顔をして答える。
「なに急に。そんな訳ないでしょ」
「いや、背丈だって高いしお顔も男の俺が言うのもなんですが美形ですし…仕事はよくできるし、それにさっきみたいな事されたら誰だって虜になりません?」
饒舌に語る藤堂を見て梶は呆れた顔をすると、茶を飲み息つく。
「藤堂ってたまに少女漫画みたいな思考してるよね」
「なっ!」
「俺そこまでできた人間じゃないし、気を許した人にしかああいう事しないから」
サラッと言った言葉の気の許した人に自分を入れて貰えた事がかなり嬉しくて、ニヤける頬を必死に抑える。
「気持ち悪い笑い方しない」
「気持ち悪いは酷くないですか…!?」
隠したつもりだったが彼には見抜かれてしまい不快だと言われるが藤堂は気にせず話を続けた。
「…でも正直、梶さんが来てくれて良かったです」
「なんで?」
梶は資料を持ってきてた鞄から取り出しながら藤堂に訳を聞く。
「気づいてると思いますし古賀さんから言われてると思いますけど俺、ヘマやらかして捜査から外されまして…」
「そうだね」
「う、アッサリとしてらっしゃる……。古賀さんとのバディも一時解消だって言われて話す機会もないし一緒に行動出来てないですし、最近むしろ避けられてるんじゃないかって」
「おー。古賀さん見事に勘違いされてる」
思っていた事とは真逆の言葉が梶の口から告げられ、俯きかけてた顔を上げ彼の次の言葉を待った。
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