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第31話

給湯室に着くと各々のコップを用意し冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出すとコップに注ぐ。 (……梶さん大丈夫かな) 戻ったら労いの言葉をかけてあげようと考えていると目の前を古賀が通り過ぎた。 呼吸を止め存在を消していたつもりだが、こちらに気がつき踵を返す古賀に藤堂の心臓が跳ねる。 入れ違いになることを願っていたがまさかの2人きりな状況に藤堂の目が泳ぎだす。 (ちょっと今は会いたく無かったな…) 心の準備ができてないことなどお構いなしに古賀が給湯室の中へと入ってくると藤堂を壁際に追い込み片手を壁につき逃げ道を塞ぐ。 「え、あ…こ、古賀さん?」 「………」 「ちょ…っと出られないんですが」 彼の身体からふわりと煙草の残り香がし、余計に意識してしまい心臓が大きく鳴りだす。 (古賀さんの匂いだ…) 自分の心臓の音が聞こえてしまっているのではないか心配になる藤堂の耳元で古賀が低い声で言った。 「…お前、今日の夜空けとけ」 「……はい?」 もう一度聞き直そうとするが、古賀はすぐに藤堂から離れると何事もなかったかの様な顔で給湯室を出ていってしまう。 1人になり緊張が解けたのか脚の力が抜けその場にヘロヘロとしゃがみ込み藤堂。 (な、なんだったんだ…あんな近くで言う必要ないんじゃ) 先ほどの梶との会話が効いてるのか古賀の声が頭の中で反響して離れない。 そして、その声をきっかけに今までの古賀との出来事が思い出され火照る身体を手で仰ぎながら鎮める。 「……古賀さんのこと大好きじゃん。俺」 ボソリと呟いた思いがけない一言に自分自身で驚き口を塞ぐと、もう一度自分が何を口走ったのかしっかりと考え直す。 (今、俺なんて言った!?…え、好きって言った!?俺が?古賀さんを?…ちょ、ちょっと待って好きって上司としての…じゃなくて恋愛的な方の?…う、嘘だろ) 沸々と彼に対する思いが考えれば考える程大きくなっていくのが解った。 「どうしよ…俺…」 好きという感情を理解した途端、息が詰まり胸が苦しくてたまらなくなった。 用意したアイスコーヒーの氷が音を立てて溶けるのと同時に藤堂は古賀への思いを確信してしまった。

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