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8.
薄暗闇の中、小さく身じろぎをし、うっすらと目を開けると、静かに眠る兄が目に映った。
起きた時でも兄がいるという不思議な感覚を覚えながらも、寝姿ですら思わずほぅとため息を吐いてしまうほどの美しさに、少しの間見つめていた。
一言も寝言を口にしない兄は、一体どんな夢を見ているのだろうか。
「⋯⋯にい、さん⋯⋯」
容易に口にすることすら赦されなくなったかつての呼び方を、恐る恐るといったように口にしてみた。
あれほどしっくりしていたこの呼び方も、今となっては違和感を覚えるものになってしまった。
今までは兄弟として一緒にいた、そして、これからは夫婦として連れ添うこの人のことをどう呼べばいいのだろう。
「あ⋯⋯おと、さん」
緊張した声音で惹かれるようにまつ毛に触れようとした時、瞼が動いた。
「⋯⋯葵、どうしたの」
「あ⋯⋯え⋯⋯と、まつ毛長いなって⋯⋯」
「ふふ⋯⋯葵もそうでしょう?」
そう言って、上げたままの手を取って、その指先に唇が触れた。
触れた箇所に熱が帯びていく。
「頬を赤くしちゃって。可愛い⋯⋯」
「な⋯⋯っ、あ⋯⋯え⋯⋯」
くすくすと笑う碧人に引き寄せられ、頭をポンポンされた。
「に⋯⋯ぃ⋯⋯あ⋯⋯と、さん」
「いつまでもこうしていたいけど、食べる前にしないとね」
そう言われた時、今日がその日だということを自覚させられる。
これからすることに瞬間、緊張し始めた葵人に「タンポンを換えないと」と布団を捲り上げた。
「今日もまだお腹とか頭とか痛い?」
「うん。横になってても辛いかも⋯⋯」
「そうか⋯⋯やっぱり無理そうかな」
慣れた手つきで晒された臀部を拭いつつも、新しいタンポンを挿入挿入 れながら呟いていた。
きっと昨日言っていた行為をこれからしたいが、葵人自身がこのような状態であるから、無理させたくないのだろう。けれども、葵人は。
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