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30.
「思っていることを当ててくれたら、嬉しい、ね······。どうしても可愛いと思ってしまうな」
クスッと笑った。
その瞬間、張り詰めていた空気が緩んだのを感じ、葵人も呼吸が落ち着いていった。
しかし、碧人の「難しい提案だね」という言葉に、再び緊張することとなった。
「僕から離れてしまってから、葵は僕の知らない葵になってしまったようだし、もしかしたら、葵が思っているのと僕が思っていることは違くて、葵を喜ばせることが出来ないかもしれないな」
「······けど、そうであっても、言ってみて欲しいのだけど······」
「だって、僕は葵が思っていることを完璧に分かっていたいし、それに葵がそう望んでいるのだから、応えてあげないと」
見惚れてしまいそうな笑みを向ける。
これは要するに、葵人に言わせたいというところなのだろう。
頑なに言ってたまるものかと思っていても、結局碧人の言われるがままに言動を起こされてしまう。
それも仕方ないことだ。そうなるのが当たり前な罪を自分は起こしてしまったのだから。そう、仕方ない。
「あのね、にい······僕が最初に言ったことだから、僕があ······おと、さんが嬉しく感じていたことを言うから」
「そうだね。けど、そんなにも僕に言わせたいのなら、そうだな······僕のことを兄と呼ばずにきちんと恥ずかしがらずに呼べたら、言ってあげるよ」
笑顔を崩さない碧人に対して、目を開いた。
「え······そんなことで、いいの?」
「葵にとっては、難しいことじゃないかな? 指輪も贈ったというのに、未だに自覚がないようだから」
指摘された時、知らぬ間に嵌められていた指輪の存在を改めて感じさせられる。
兄の言う通り、未だに「兄さん」と言いかける。しかし、それは葵人が知らない間に夫婦という関係にさせられていた上にその証として、指輪が嵌められているのだから、自覚しようにも無理な話だった。
けれども、そんなこと碧人にとっては言い訳にしかならない。
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