31 / 47
31.
「······ちゃんと自覚するために呼ぶから、聞いてね」
「うん」
にこにこして呼ばれるのを待っていた。
自分で言っておいてなんだが、改めて聞く姿勢でいられると照れてしまって、口ごもってしまう。
僕にとっては、難しいこと。
碧人に言われたことを思い出し、負けたような気がして、ムッとした。
たった一回だけでもいいのだから呼んで、勝ち誇ってみせたい。
小さく深呼吸をして、口を開いた。
「······あ、あお、とさん······」
「うん」
「あお、あお······とさん······」
「うん」
「あ、おと、さん」
「うん」
「······あ······無理······かも」
「そう」
きちんと言えなかったというのに、満足そうに笑みをたたえたままだ。
「ちゃんと言えなかったね。でも、一生懸命呼ぼうとする可愛い葵が見られて、嬉しいな」
言葉通りに嬉しそうに笑う碧人に、瞬間、赤くなった。
そういう意味で笑みを崩さなかったというのか。どちらにせよ、碧人の思惑通りになってしまったようで、悔しい。
「今度こそは、ちゃんと呼んでみせるからっ!」
「ふー······ん。でも、こんな状況で耐えられるかな······?」
「······っ、押し付けないで······っ」
「ふふ、何をかな······?」
余裕たっぷりの笑みを見せつけて、ぐりぐりと押し付けてくる。
恐怖で縮んでいたものの、羞恥で呼べずにいた合間に再び興奮を見せていたモノを、追い討ちをかけるようにそうされるものだから、嫌でも反応してしまう。
もっと言うなれば、碧人は半裸であるものの、昂りは浴衣に隠されており、葵人はというと、一糸まとわぬ姿。そのような格好だと意識すればするほど、限界に達してしまいそうな状況に陥った。
「あ······ぁっ! もう、イッ······!」
無意識のまま、腰を振っていた矢先、動きが止まった。
刹那、強ばっていた身体が解け、碧人に身体を預ける形となった。
息が上がっている葵人の頭を愛おしげに撫でられ、触れられる度に甘美に震えた。
「······我慢できてえらいね。そのまま本能に従順でもいいんだよ······? 悪い子の葵なんだから」
「ふ······っ、ん······」
軽く達してしまったのではないかと思うほどの、あの快感の波を感じていた。
そして、気を張っていたこともあり、葵人はいつしかまどろみの浅瀬に入って行ったのであった。
ともだちにシェアしよう!