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第4話
体中が痛い。2階から飛び降りて怪我をしないなんて考えてはいなかった。
「いや。違うな」
あの時は何も考えていなかった。ただカメラを。そうだカメラ。
「……っ」
思わず飛び起きてあまりの痛みに恭平は、顔を顰める。
「何やってるんだ。ぼくは」
自分の迂闊さが恥ずかしい。体中が痛いって分かっていたのに。母さん。どうして何も言ってくれないの。見ているだけ。生きていない。知ってる分かってる。まだ認められない。ぼくの名前を呼ぶ。優しい声と幽霊を浄化する柔らかな歌声。写真を褒めてくれた時の母の笑顔。
「母さん」
何も言わない母に手を伸ばす。ぼくはどうしたらいい。
「貴様の目には何が見えておるのじゃ」
「えっ」
誰もいない。勝手に思っていた。ここは一体何処。今更気が付いた。見慣れない和室と布団。ぼくの部屋じゃない。後ろを振り返り見た猛獣に危うくまた気絶するところだった。固まったまま動けない。猛獣を目の前にして死を悟る小動物の気分を恭平は味わっていた。自分はこのまま食べられて死ぬのか。せめて痛くないように丸呑みしてくれたら。
ぺろ。ぺろ。
まるで子どもあやすように虎はぼくの頬を何度も舐めた。まさか食べるために味を確認しているのか。考えを否定するように虎が顔を甘えるようにぼくの顔に擦り付けた。
「たっ、食べなっないのですか」
虎相手に問いかけるなんて本当に馬鹿げているけれど、さっき言葉を発したのは、ぼくと虎しかいないのだから彼で間違いないはずだ。この状況をどうにかしなければ。怖いけど怖いけれども。食べられて死ぬのは、まだ死ねない。
「食べる?我は野菜しか食わぬぞ」
まさかのベジタリアンの虎。安心して恭平は腰を抜かしてしまった。
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