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第6話
「もち、帰ってからもするさ。でも今は今! シュウ、こっち向け――俺を見ろ……よ」
「バッ……カやろ……んっ、んむ……」
唇を塞ぎ、長い長い接吻の音――それもとびきりの濃いキスだ。俺は気配でそれを感じ取ったが、願わくば冬樹には伝わっていないことを祈るばかりだ。
「ンだよ……! てめ、いきなしマジんなるって……それ、反則……ッ……」
「……シュウ、挿れんのが嫌なら……これ――お前のココで抜かして? お前ンは……俺が手でしてやっから――」
「……は……ぁッ、そこまで……すんなら同じ……だろうが」
「ん? だってお前が気に……ッ、してるみてえだからさ」
「あ……ぁ、マナ……い……から、も……好きにしろ……ッあ」
「ん――挿れる前に……お前のイイとこ、ここだろ?」
「……く……ッあ――!」
「シュウ……秋夜っ……たまんね――やっぱ、実家ってのはちょっとだけスリルあんのな。すっげ萌える」
「バカ……こいてんじゃね……っての」
「シュウ、限界――! 素股だけですぐに出ちまいそ……だ」
「ああ……はぁ……ッ、俺もッ! そこ、親指で弄ん……なっ!」
「先っちょか……? すっげ、ヌルヌルだもんな」
「あぁッ、マナ――マ……ナ……っ!」
「聞けよシュウ……俺はいつでも……どこでもお前が欲しいんだって……! 解 れ……よ……ッ!」
途切れ途切れの言葉が激しい吐息と嬌声だけになり、今、二人がどれだけ興奮しているかをありありと物語っていた。
「秋 ――シュウ……!」
まるで獣が肉食するかのように野性的でいて淫らな空気が、開いた扉を更に開けてしまう程の振動となって、ここまで伝わってくるようだ。
霊界で酸いも甘いも知り尽くしているこの俺でさえ、多少なりともビビる程のそれだ。若干十五歳の冬樹にとっては、この上ない衝撃だったに違いない。
ガクガクと膝が笑い、肩が震え、恐怖感までをも伴うくらい、全身が金縛りにされてしまったようだった。
それ以上聞いていることに堪え切れず、正気を失ったように呆然となって、ふらふらと自分の家まで逃げ帰っていく冬樹の後を追い掛けて走った。
「ひ……どい……! こ……んなの――! 酷いよ、夏兄ぃ……!」
自室にこもると、ベッドに突っ伏し泣き崩れてしまったこいつに、俺は何とも言い難い切なさを持て余していた。
◇ ◇ ◇
結局、冬樹はまんじりともせずに夜を過ごし、空が白々する頃になっても満足な眠りに就けなかったようだ。泣き疲れてウトウトとするも、すぐにまた起きて泣き――を繰り返し、とにもかくにも昨夜見たことが気に掛かって仕方ないのだろう。
昼前になってようやくとベッドから抜け出した冬樹は、運悪く母から使いを頼まれたこともあって、隣の真夏の家を訪ねることになってしまったのだった。
長年見慣れた隣家を見上げ、呆然と立ち尽くす。去年まではここで靴を脱ぐのが大好きだった玄関には、見慣れない男物の靴が目に痛い。粋なデザインのそれは、間違いなく真夏の連れてきた彼のものなのだろう――自身の靴を脱いで居間へと向かう足取りも重かった。
「お邪魔します……」
遠慮がちに、小さな声でそう呼び掛ける。
ちょうど昼飯時だったようで、真夏は無論のこと、彼の両親や祖父母、そして当然『彼』も一緒に、皆で食卓を囲んでいる最中だった。
「こんにちは。これ、母から言づて頼まれて……」
冬樹は重い気持ちを懸命に隠しつつ、真夏の母親に大きなスイカの玉を差し出した。それに気付いた真夏が食事中の箸をとめて、嬉しそうに卓を立ち上がると、こちらに向かって来て、親しげに冬樹の頭を撫でてよこした。
「よぉ、冬樹じゃねえか! ちょうどいいところに来たぜ。俺ら、これから下の川に釣りに行こうって話してたんだけど、お前も一緒にどうだ?」
何も知らない彼は、相も変わらず懐っこい表情でそう誘ってくる。だが、冬樹はすぐに返事をすることができなかった。
まあそれも当然だろう、あんな衝撃的なモンを見ちまった後なのだから、経験の少ないこいつには何を話していいかすら分からないはずだ。
目の前にはいつもと何ら変わらない『夏兄』が微笑んでいる。なのに、昨夜盗み見てしまったことが、どうしたって頭から離れてはくれない。
あれからこの二人はどうしたのだろうか。如何なウブのこいつにでも、あれが官能的な行為だということは充分に理解できてしまっただろうことは想像にたやすかった。
男同士でいながらにして恋人であることが明らかな二人を目の前に、そんなのは不純だと心が掻き乱される。が、しかし、かく言う自分とて、この真夏に密かな恋心を抱いているのは否めない。けれどもこの秋夜が相手では、仮にし彼から真夏を奪い取るにしろ、逆立ちしたって勝てそうにない――冬樹の顔にそう書いてあるふうなのが、ヤツの表情から窺えた。
勝ち負けの問題ではないが、どうにも気持ちが揺れてならないのだろう。苛立ちと嫉妬、不安と憎悪、なるべくならば持っていたくはないような感情ばかりが湧き上がってきて、二人が仲睦まじく居るところを見ているなど、とてもじゃないが苦しくてならないというのが手に取るように分かった。
「……僕、今日は部活があるから行かない……。夏兄いと……秋夜さん……と、二人で行ってきてよ」
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