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【零】二人②

 蒸気機関と人工知能を組み合わせた、完全自立式のモノレールが、その時停車した。軍服の首元のネクタイを直しながら、一度長く目を閉じてから、花瑛は車両に乗り込んだ。黒いコートを羽織っている。  花瑛は軍人だ。軍人だと、本人は考えるようにしている。  生を受けて、今年で二十四年。人手不足の軍部にあっても、この年齢での大尉への昇格は異例の速度だ。  どこか氷のような空気を放ってる花瑛は、己には非常に厳しいのだが、上層部や科学者には、規定通り腰が低い。余計な事は決して言わず、決定には従う。御しやすいと考えられているからなのか、別の理由からなのか――兎も角、昇進したのは事実だ。  青闇色の髪と瞳をしている花瑛は、白い肌に軍服を身につけている。その出で立ちは、ある種の絵のようで、非常に美しい。あまり軍人らしい容姿では無い。 「……」  次の次の駅まで、数分だった。瞬きをする間に、自宅の最寄り駅まで到着したので、花瑛はモノレールから降車した。細く長く吐息してから、改札にカードをかざす。すると歯車が動き、ゲートが開いた。  軍に指定されたマンションで、花瑛は暮らしている。近衛町駅から徒歩で五分。高級マンションの七階に、花瑛の家は存在している。ワンフロアには、二軒が入る形であり、エレベーターを降りて右に進むと花瑛の家が、左に進むと別の人間が住む部屋が存在している。もうひと部屋の住人を、花瑛は知らなかった。  カードキーで扉を開けると、歯車の音が響いた。  室内に入り、軍指定のブーツを脱いだ花瑛は、真っ直ぐにソファへと向かい、ネクタイを解いた。それからチラリと、夜空が見える窓の向こうを眺めた。蒸気機関と最先端の科学で構成されている、和洋折衷の街。それが近衛町である。  軍の仕事は激務だ。しかし、疲れたとは感じない。細身に反して、花瑛には体力がある。筋力はつかないタイプであり華奢で痩身であるが、運動能力は高い。身体機能を補佐する機械が体内に入っているからだろう。  ――それよりも、体が熱い。  もう長らく、他者と性的な接触を、花瑛は持っていない。軍属になってから、花瑛は意図して、性行為を己に禁じてきた。しかし一見ストイックな花瑛であるが、体の熱はどうにもならない。精神的には清廉であっても、肉欲が消えない。 「ダメだ……」  それでも、本日も自制する。何度も頭を振り、きつく目を閉じて、花瑛は耐えた。

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