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【三】関係の開始
鳴神の寝室は、巨大なベッドがあるのみだ。遮光カーテンで日の光は遮っている。暗くないと鳴神は、よく眠れないたちだ。寝室に入ってすぐ、怯えるように花瑛が、首元に手をかけた。脱ぐのを戸惑うようにしている。
それに気づきつつ、しかしなんと声をかければ良いかも思いつかなくて、鳴神は己の上半身の服をとりあえず脱ぎ捨てた。研究者にしては引き締まっている体をしている。食事で必要な栄養素を補うサプリを愛用している事と、適度な運動をしている効果だ。人型のロボット開発をしていると、人間の体自体にも、相応に詳しくなる。
花瑛の体は、言われてみればセクサロイドと聞いて納得出来るほどに、腰が細い。セクサロイドは元々筋肉がつきにくい構造が多いのだったなと、鳴神は思い出していた。
白い指先で、おずおずと花瑛が服を脱いでいく。初めて見る私服が、よく似合っていた。
その後お互いに服を脱ぎ終えてから、鳴神は花瑛に一歩、歩み寄った。こういう時は、抱きしめた方が良いのか、もっと義務的な方が良いのか。そんな事を考えていたのは、ドクンドクンと鼓動が煩かったからだ。結果として鳴神が選んだのは、義務的な方だった。
「寝台に上がって」
「はい……」
素直に花瑛が移動する。そうしてベッドに座ってから、鳴神を見た。
「どんな姿勢が良いですか?」
このような、セクサロイドらしい台詞を述べるのは、実は――初めての事だった。花瑛はセクサロイドではあるが、実は性的な経験がまだ一度も無いのである。セクサロイドとして生み出されてすぐに、法律が制定されたため、一度も娼館で働いたり個人所有される事もなく、解放されたからだ。台詞自体はプログラムされているのだが、緊張しないと言えば嘘だった。
「うつ伏せかな。その方が負担は少ないと思うから」
鳴神が答えると、花瑛は頷いた。言われた通りの姿勢になる。膝を折って臀部を突き出す形にしたのは、バックからの挿入なのだろうと無意識に判断しての事だった。鳴神もまた、寝台に上がる。そして、じっと綺麗な色彩の、花瑛の菊門を見た。
「ぁ……」
花瑛は、鳴神に菊門を指でつつかれた瞬間、声を漏らした。それだけでも敏感になっている体には、十分すぎる刺激である。一気に全身が熱くなった。鳴神が迷わず二本の指先を、花瑛の中に挿入する。セクサロイドの体であるから、すんなりと花瑛の体は指を受け入れた。
「ぁ、ァ……あ……」
鳴神の指が進んでくるだけで、花瑛の陰茎が反り返る。すぐに反応を見せた体は、貪欲に更なる快楽を求めていた。指を根元まで入れた鳴神は、その指先をバラバラに動かす。すると花瑛の背筋をゾクゾクと快楽が走り抜けた。
「っ、ぁ」
先程見つけ出した花瑛の前立腺を、鳴神が刺激する。ギュッと目を閉じて、花瑛は睫毛を震わせた。それだけで射精しそうになった。花瑛の体は、何度でも果てられる身だ。ただし、内部を刺激された場合であるが。
「も、もう良いです。挿れて下さい……っ、ン」
「確かにこんなに柔らかくてドロドロなら、すぐにでも挿りそうだけど」
触れているだけで鳴神は昂ぶっていたから、確かにすぐにでも挿入出来る。そう考えながら率直に述べた鳴神であるが、花瑛にはその声が羞恥を煽るものに思えた。カッと頬が朱く染まる。
「じゃあお言葉に甘えて」
「あ、ああ……っ、ア――! あア、ぁ!」
鳴神が完全には勃起していない状態で、陰茎を挿入した。初めての経験に、花瑛はシーツを握りしめる。声が抑えられない。自分がずっと求めていたものが何だったのか、強制的に理解させられた気がした。進んでくる陰茎が触れあっている内壁の全てが気持ち良いのだ。
「あ、あ、あ」
「辛くない?」
「あ、へ、平気です……あああ」
涙混じりの嬌声を花瑛が上げる。根元まで肉茎を挿入し、鳴神は一度動きを止めた。内部でどんどん、鳴神の陰茎の硬度が増していく。それをギュウギュウと花瑛の内側が締め付けているのだが、まるで絡みつくようで、鳴神は熱い息を吐いた。
「これまで、どんな風に抱かれてきたの?」
「ゃあ」
腰を軽く揺さぶりながら、鳴神が聞いた。震えながら、花瑛はドロドロに蕩けた顔をする。セクサロイドは、挿入されてしまえば、抵抗しろというようなプログラムが無い限り、素直に従ってしまう体だ。だから花瑛は、素直に答える。
「あ、あ、初めてで――熱い、やぁ……あ、あ、も、もうイきた、っ」
「え?」
その言葉に驚いて、鳴神が目を見開く。汗ばんでいた体に、冷や汗も浮かんだ。未経験のセクサロイドなど、本当に貴重な存在である。考えてみれば、セクサロイドが軍属というのも不可思議な状況であるから――……何か事情があるのだろうかと考える。
「軍属の前は何をしていたの?」
「あ、ハ……出荷待ちで……」
「じゃあ購入者がいたの?」
「あ、あ、あああ! 待って下さい、動かれたら、喋れな――あああ」
「ゆっくりでいいから」
意地悪く腰を揺さぶりながら、鳴神が言う。無意識の発言と動きであるが、根本的に鳴神はSっ気があるのだ。
「ひ、ぁ……あ……ぐ、軍の……中将が僕を買って……」
「それで?」
「でも、亡くなって……その時の遺言で、僕は軍属に……っく、ぁ」
「なるほどね。影響力があるお偉いさんだったんだろうな」
「あ、あ、お願いです、動いて。もっと、突いて……あ……」
「でも動くと話せないんでしょう?」
「やぁ……」
腰を揺さぶられるだけでは焦らされているに等しく、花瑛は噎び泣いた。気持ち良いのだが、頭が真っ白になりそうなのに、果てられなくて辛い。
「じゃあ初めてなんだ? 俺が」
「は、はい……あ……」
「さっき指を入れられたのが、本当の初めて?」
「ん、ぁ……指は……出荷前の検品の時に……」
「正直だね。ふぅん」
鳴神が酷薄な笑みを浮かべた。気分が良い。自分しか知らない体を開くのは楽しい。ゆっくりと鳴神は、花瑛の願いを叶えるべき律動を開始した。
「あ、ン、っ……ぁ、ァ……」
「こうされたいの?」
「ッっ、ぁ……お願いです、お願いだから、もっと、もっと、あ、あ」
既に花瑛は理性が飛びかけていた。普段ならば絶対に言わないような事を口走っている。鳴神は、普段の清廉な様子とは違う花瑛の痴態にゾクリとしていた。一度息を詰めてから、抽挿を激しくする。華奢な花瑛の腰を両手で掴んで、責め立てていく。
「あ、あ」
「気持ち良い?」
「はい、あ……ああ! ア! そこ、あ」
「ここが好きなんだ。奥か」
「あ、あ、あ」
「初めてなのに、やっぱり機能の問題なんだろうけど――すごいな」
処女ビッチ、なんていうスラングが、鳴神の頭に浮かんでくる。初体験なのにド淫乱の体をした麗人など、そそる以外の何物でも無い。
花瑛の体からは、どんどん力が抜けていく。すすり泣きながら、花瑛は喘いでいる。必死に呼吸をしている様子で、白い体は上気していた。
体格の良い鳴神は、後ろからそんな花瑛の背中に体重をかけて、今度は両手で花瑛の乳首に触れる。奥深くまで挿入したままだ。
「ひゃ! あああああ!」
乳頭をギュッと摘ままれた瞬間、目を見開いた花瑛の頭が、真っ白に染まった。
「あ――! ダメ、あ! イく」
「勝手にイく事が許されてるの?」
ねっとりと花瑛の耳の後ろを舐めながら、鳴神が囁くように言う。すると――花瑛の中のAIが起動した。命令だと判断したのだ。
「あ……や、や、やぁ! イけない! ああああ」
「嫌がる許可はあるの?」
「う……うあ……」
「抵抗されると燃えるから、それは良いんだけどね」
鳴神の瞳が獰猛な色を宿していた。貪り尽くしたい衝動に駆られた鳴神の側も、理性が飛びかけている。鳴神は、花瑛の乳首を弄びながら、意地悪く笑った。鳴神の体に押しつぶされている事と、力が入らない事で、花瑛は震えるしか出来ない。シーツの上に、花瑛の陰茎から液が垂れていく。
「初めてなら、俺の形を記録して貰おうかな」
「あ、あ……それ、は」
「今後も俺がメンテナンスしてあげるから。それには、その方が都合が良いでしょう?」
本来、内部への陰茎の形の記憶は、個人所有時に行われる。花瑛は怯えた。
「ま、待って――ああああ!」
しかしその制止を聞かず、容赦なくゴリと内部の記憶装置を陰茎で突き、鳴神は強制的に記憶させた。瞬間、花瑛の内部が収縮する。花瑛の側には壮絶な快楽が襲いかかり、ついに理性が飛んだ。
「あ、あ、あああ! ダメ、も、もう、あ」
「拒否権があるの?」
「っ、ぁ……」
「無いよね?」
「う……うあ……」
「楽になりたいんじゃないの? なりたかったんじゃないの? 今までも。そして、これからもかな。本音、言ってごらん?」
「ああ、あ、楽になりたい、も、もうイきたい」
「いっぱいイきたい?」
「うん、うん……」
「誰のもので?」
「鳴神博士……う、うう……あ、あ、頭おかしくなる、やぁああ」
「中だけでイってみて」
「あ――!」
鳴神の声に、花瑛の体が反応した。最奥をぐっと押し上げられた瞬間、花瑛の頭が白く染まった。何も考えられなくなる。気づけば、射精していないというのに、果てている感覚に襲われていた。ビクビクと体が動いている。足の指先にギュッと力を込めている。震えている花瑛の首の後ろを舐めながら、蠢く内部の感覚に、気持ち良いと思って鳴神は目を閉じる。もっと欲しい。
「動くよ」
「待って下さ――あああああ、待って、あ、気持ち良すぎて、あああああ!」
激しく鳴神が打ち付けると、花瑛が大きく声を上げた。それに気を良くしながら鳴神は何度も貫き、そして内部に放つ。瞬間、体に何かが染みこんだように、花瑛は感じていた。精液のデータも、セクサロイドの体は記憶するのだ。より、その人間を悦ばせる為に。
「う……ひ、ぁ……もう出来な……」
「そうなの?」
「あ、あ……は……」
陰茎を引き抜き、鳴神はぐったりしてしまった花瑛の隣に寝転んだ。視点の定まっていない花瑛の様子を見て苦笑する。
「飛んじゃったか」
「……」
何も言えなくなってしまった様子の花瑛の頭を優しく撫でてから、鳴神は腕で抱き寄せた。それから暫くそうしていると、次第に花瑛の呼吸が落ち着き始めた。
「あ……僕……」
「体は楽になった?」
「!」
花瑛が驚いたように目を見開いた。これまでの間、毎日のようにずっと苛まれていた熱が、確かに引いていたからだ。
「これからは、いつでも俺を頼ると良いよ」
そう口にした時の鳴神は、いつもの様子に戻っていて、淡々とした声音だった。だが、花瑛を腕枕している仕草は優しい。真っ赤になった花瑛が、ごく小さく頷く。
これが二人の始まりだった。
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