「じゃあまたな、凛」 俺は上手く笑えていただろうか。 俺は上手く別れを告げられていただろうか。 ここの数年凛ばかり気にしていて、それが普通だったけど、これからは凛の居ない生活になるのかと思うと不安ばかりが募る。 凛は性格は悪いけど顔面ばかりは綺麗だから、俺なんか直ぐに忘れてていくに違いない。 そう思うと寂しさよりも哀しみのほうが辛かった。 こんなときでも凛は顔色一つ変えないから凄いと思う。 それかもう俺は凛の視界に入ってないのか。 「世一」 俺を呼ぶ声の主は冴だった。 「この日を待っていた」 冴の声は落ち着いているが、とてもよく響く。 きっと数メートル離れている凛にも聞こえているだろう。 もし凛が俺に振り返ってくれたら、まだ変わらず好きだということを伝えようと思ったけれどそれは甘い考えだった。 「やはり愚かだな」 冴が言った言葉は俺へなのか凛になのか分からなかったけど、きっと俺達に言ったのだろうと理解した。 「これからお手柔らかにお願いするよ、冴」 俺が苦笑いでそう言うと冴は顔色一つ変えずに腕を掴んで引いた。 抱き寄せられた冴の腕の中は暖かかった。 「辛かったな」 この人は俺の理解者で好きな奴の兄ちゃん。 失礼なのも分かっているけど、その表情を凛に重ねていた。 きっとこの人なら俺のほしい言葉を全てくれるだろう。 さよなら愛しき好敵手。 「俺の想い人が冴だったなら、こんな辛い思いはしないで済んだのにな」