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人生チャラい

 柳人は、俺と違って、あまり口数の多い方ではないから、よくわからないのだが、いつもより、はしゃいで見えた。きっと、久しぶりに遊んだのが、楽しかったんだな、と思った。柳人は、俺みたいな、お気楽な大学生と違って、いつも、予備校で、退屈で大変な受験勉強ばっかりだもんな。  俺が、お気楽な今までの人生で唯一がんばったことといえば、大学受験の勉強だ。部活は帰宅部だったし。放課後、地元の予備校へ通って、勉強ばっかりしていたから。といっても、仲間は、だいたい、みんな同じ予備校に通っていたが。進学高校だから、そんなもんだろう。なので、高校時代、女の子とつきあったことはなかった。  まあ、そこは、大学生デビューでしょう。 「港、大学、どう?」 柳人が聞く。 「楽勝だよ」 大学の授業は、適当に後ろの方の席に座っていても、授業に出ていさえすれば、前期の試験もクリアできたし。 「彼女、できたか?」 不意に、柳人が聞く。 「え? これからでしょ」 俺は、海岸線のカーブに沿ってハンドルをさばきながら答える。 「そんなこといって、もててるんだろ?」 柳人が、疑るように聞く。 「うーん」 俺は、答えるのに躊躇する。まあ女の子から、誘われることも、なくはない。 「田舎から出てきた子もいるから、そんな子は、あか抜けてはいないけど、簡単に引っかかるかな」 俺は、誰かが言っていたようなことを知ったような口ぶりで適当に答える。 「やっぱり」 柳人が、ため息をつく。 「嘘だよ。そんなことしてないって」 俺は、笑いとばす。 「柳人は、なんでも、真に受けるからな」 「港は、やっぱり、美人が好みか?」 珍しく、柳人が、そんなことまで聞いてくる。思えば、柳人と俺は、二人きりで行動したことがない。たいてい、ほかのやつらといっしょだ。だから、そんなプライベートな話も、したことがない。 「ほかの地方から来た子もいるしな。そういう子は、一人暮らしだからさ、寂しいだろうしさ」 「おい、やっぱり、港、チャラいなあ」 柳人が、あきれたように、俺を批難する。 「いや、違うって、寂しいって言ってくるんだって。俺は、何もしてないから」 俺は、弁解する。 「はいはい」 柳人は、まるっきり信じていない口ぶりだ。 「そういう柳人は、どうなんだよ」 はっきりいって、俺より、柳人のがモテそうだ。背は高いし、おっとりしていて、お坊ちゃんっぽい。だが、何かと要領が悪いのが玉にきずだ。でも、そこが、かえって、たぶん、年上の女なんかにモテそうで、俺は気が気ではない。柳人は、永遠に、あか抜けないでいてほしい。そして、誰のものにもならないでいてほしい。 「僕は、まだ大学生じゃないから。それに、大学は、勉強するところだろ」 柳人は、遠慮がちに、真面目そうに答える。そうそう。柳人は、それで、いいんだよ。俺は、柳人が、まだまだ、俺のものであることに、満足する。いや、俺のものってことはないけれど。とりあえず、まだ、俺のもとにいる。俺は、その時、そう思って安心しきっていた。

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