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それはきっと夏だから

 誘ってよかった。柳人は、浪人生だから、誘うのも、最初は、ちょっと躊躇した。今までにも何度か誘って、模試があるからとか、なんとかで、断られたこともあったから。それに、思い返せば、みんなで遊んでいた時も、柳人は、あんまりのり気では、なさそうな時もあった。一人で浮かない顔をしている、時もあった。まあ、そんな感じで、普段は、あまり、ノリのいい方ではなかったかもしれない。が、今日の、柳人は、ご機嫌だった。  きっと、それは、夏だから。ああ、いつもの夏だから。永遠に終わらない夏だから。俺たちの夏はこれから始まり、そして、人生の夏は、永遠に続き、終わることはないだろう。俺には、そうとしか思えなかった。  この空のように、この海のように、俺たちの自由と未来は、どこまでも広がっていて、そしてイージーだ。いつでも、それは、手の届くところにある。手に入らないものなんてない。手に入らないものを、苦労して手に入れたいだなんて思わない。なぜなら、それは、もう、すでに、じゅうぶん、ここにあるのだから。俺は、それで満足。もう十分に満足。いつだって満足。これでいい。何の不服がある? 反抗なんてくだらない。てきとうに、うまくやっていけばいい。  それもそのはず。俺は、このとき、何もかも、所有していた。俺は、そのことに気づいていなかった。それが、ごく自然に与えられたもので、永遠に自分のものであることを信じて疑わなかった。

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