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友情と恋愛のあわい
夕陽が海に沈む。
風にたなびく雲が薄く横に流れる。雲と空は藍色と深い青に沈んでいく。
心のときめきと、心の鎮静。両軸が均衡を保ちながら引き合って夜へと向かう。
友情と恋愛のあわいのように。その均衡が、崩れない、奇跡のバランスの綱の上に、俺たちは、立っていた。
風は潮風だ。潮と海の湿度を含んでしっとりと優しく肌にまとわりつく。柳人の優しい沈黙のように。何かひとことでも言ったら、この危うい均衡が崩れてしまうことを、俺も、柳人も、わかっていたのだと、俺は思った。
柳人は、黙っているけれど、俺は、柳人を信じていた。信じていることを意識しないくらい、その存在が、あたりまえであるくらい、そのくらい、柳人のことを、信じきっていた。
長い沈黙のあと、子守唄のような優しい潮騒に混じって、夕闇の中に、柳人の声が聞こえた。
「帰りも、安全運転で頼むよ」
俺の手に、柳人の命がゆだねられているのだ。俺は、それだけで、満足だった。
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