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何のせいかは、わかっていた

 アナウンスが流れる。 「○○ちゃんへ、元気で育ってね。じいじとばあばより」 簡単な、ひと言メッセージのあと、ポーンと一発、簡素な花火が一つ打ち上がる。 「○○へ結婚おめでとう。友人一同より」 お祝いメッセージの後に、また一つ、素朴な花火が上がる。 「おじいちゃん百歳おめでとう。子ども孫一同より」 俺は花火を一人で見ている。  はっ、なんだよ、家族とか友達とか、それがどうした。まわりは、家族連れや、カップルばかりだ。友達同士で騒いでいるやつらもいる。  俺には関係ない。去年までは、バカ騒ぎをしていたうちの一人だったのに、一年でこんなに気分が変わるだなんて。  いや、こんなに落ちこんだ寂しい気分に変わったのは、一年でじゃない。ほんの数日、いや数時間で、だ。  こんな、しけた花火、見ていたって、つまらない。帰ろう。俺が、そう思ったのは、本当は、花火のせいではないということは、わかっていた。プログラムでは、個人花火のあと、企業の寄付による少し豪華なスターマインもあるはずだった。花火大会は、もともとささやかで、時間も短い。全部見て帰っても、遅くはならない。それに家まで、徒歩で帰れるのだ。  家に帰っても、嫌でも音は、耳に入る。家からは、住宅のかげで、花火の全貌が見えない。高く打ち上がった花火しか見えない。だったら、ここで見ていた方がいいのだ。ここでなら、海から上がる花火の、発射の瞬間から見える。打ち上がる高さの低い花火でも全て見える。花火大会が始まったばかりの、こんな時間に席を立つ者はいない。  俺の気分が、こんなに寂しく、落ちこんだものに変わったのは、花火のせいじゃない。花火大会のせいじゃない。この浜辺に集う幸せそうな人たちのせいじゃない。それは、わかっていた。だが、今は、それらの全てがうらめしく、のろわしく、俺は、いてもたってもいられなくて、いたたまれなくて、今すぐこの場を立ち去りたかった。幸せそうな人たちの姿なんて、見たくなかった。俺は、意を決して、立ち上がりかかった。

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