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俺を呼ぶ声
その時、突然、俺の名が呼ばれた。
「港へ」
女性の素人めいたアナウンサーの声が、俺の名を呼び捨てにして、俺を浜辺に、その場に引きとめた。俺は、あげかかった腰を、再び、コンクリートのかたい灰色の平らな階段におろし、暗い夜空を見上げた。
「港のことだから、このメッセージも聞いていないかもしれないな」
これは、明らかに、俺へのメッセージではないか。俺は、メッセージに耳を傾けた。
「でも、花火の音くらいは港の耳にも届くだろう」
浜辺は、人々の楽しそうな声で、ざわめいているが、マイクで放送されるメッセージは、俺の耳にも、はっきりと聞こえた。
「今まで、港といっしょに過ごせて、とても楽しかった。ずっと友達でいてくれて、ありがとう。俺はアメリカに行っても、日本の花火のことは忘れない。ついでに港のことも。うまく言えないけど、これが俺の気持ちです。柳人」
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