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「出るべき、とは? 仕事が終われば彼はこちらまで送り届けます」 「その必要はありません。彼は、その……四日後に、儀式に参加させられることになっていますから」 「儀式?」 「この村には、古い風習が残っておりまして……。クギと呼ばれる人間を、山の神に輿入れさせねばならんのです」  クギという言葉は、先ほど会った老婆の口からも出ていた。  老婆は、特別な力を持つ者をクギと呼ぶと言っていたが……。 「そのクギとはなんなんですか?」  卓上にあったペンと紙を取って、和尚がさらさらと文字を書く。  供犠。  つまり、神に捧げられる生贄だ。 「先代の供犠である朱鷺子さんが亡くなったため、新たな供犠として幸人が選ばれました。このまま村に残れば、彼は一生を棒に振ることになるでしょう」  龍之介が引きつった笑みを浮かべる。 「令和の時代に生贄? 俺をからかってんのか?」 「時代錯誤なのは重々承知しております。我々としても、こんな因習は無くしてしまいたい……。しかし、信心深い者たちも、いまだ残っているのです」  苦々しい顔をした和尚が、何度目かも分からないため息をつく。  この顔は冗談を言っている顔ではない。  ならば、本当にあの少年が、儀式で神に捧げられるというのか? 「馬鹿げてる」  思わず口から言葉が飛び出した。  龍之介はヤクザだ。  これまでたくさんの黒い仕事に関わって来たが、罪もない子どもを犠牲にしたことはないし、これからもすることはないだろう。 「だからこそ、あなたには幸人を連れて、この村を離れてほしいのです。出来ることなら、あの子が一人で生きられるように、最低限の手助けもお願いしたいのですが……」  和尚がちらりと龍之介の様子を伺った。  姪探しが終われば、幸人との契約は切れる。  しかし、田舎から上京したばかりで、右も左も分からない子どもを都会に放り出せるほど、龍之介は薄情ではない。 「それは構いません。仕事を依頼するからには、面倒はちゃんと見させていただきます」 「ありがとうございます……! では、少々お待ちください」  和尚は明らかにホッとした顔をして、応接室を出て行った。  一人取り残された龍之介は、出されたお茶を飲み干してから、龍蔵にメッセージを送信する。  朱鷺子の孫を連れ帰ると伝えれば、すぐに待っていると返信が来た。  それも、ヤクザの組長には似合わない、可愛らしいスタンプ付きだ。 「どんだけ楽しみに待ってんだよ……」  画面上でウキウキと踊る猫のイラストを見て、龍之介が口元を綻ばせた。

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