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1-4.脱出! 因習村!
十分ほど経った頃だろうか?
部屋の外からドタバタと騒がしい音がして、襖が勢いよく開く。
「龍之介さん! 俺、一緒に行っていいって!」
「おう、知ってる」
「うわー! 都会で一人暮らし出来る! やったー!」
生贄にされる、というとんでもない状況にあるはずなのだが、幸人は今にも踊り出しそうなほど喜んでいる。
緊張感のない様子を見て、龍之介は少しばかり意地悪をしたくなった。
「一人暮らしは当分無理だぞ」
「えっ」
「姪っ子を見つけるまでは、家に居候してもらうからな」
「そんなぁ……!」
よほどショックだったのか、ガックリとうなだれて、夏の終わりのひまわりのようになった幸人。
笑ったり驚いたり悲しんだり、コロコロ表情が変わる様がおかしくて、龍之介がくつくつと笑った。
「お前、かわいいな」
「もー、からかわないでください!」
拗ねて口を尖らせると、幸人がぷいと横を向く。
年相応の子どもらしい仕草が愛らしくて、もっとからかいたくなるが、これ以上は怒らせるだけだと自重する。
「幸人、早く支度をして来なさい」
「はぁい」
追いかけて来た和尚に言われて、幸人がバタバタと騒がしく廊下に出る。
「すみません、落ち着きのない子で」
「素直でいいと思います。……あの子はこの家の子ですか?」
「いえ。幼い頃から知ってはいますが……。儀式の前に、供犠はこの寺に寝泊まりして禊をすることになっているんです」
なるほど、と龍之介が呟いた。
ここまで来て両親の話が一切出てこない辺り、なんらかの理由でいないのか、それとも折り合いでも悪いのか……。
いずれにせよ、あまり突っ込んで聞くべきではないのかもしれない。
「それで、いつ頃村を立つ予定ですか? 目立たずに出るなら、日が暮れてからの方が良いと思いますが」
「いや、準備が出来次第出ます。外から来た人間の噂はすぐに広まるでしょうし、下手に時間をかけない方がいい」
夜を待って村人に動く隙を与えるよりも、相手が行動に移す前に先手を打つ方がいい。
幸人を連れてさっさと村を出た方が、後をつけられる心配もないだろう。
あとはどこぞのゲームのように、儀式の肯定派が農具を持って襲いかかって来ないことを祈るのみである。
玄関に向かえば、そこには幸人と中年女性がいた。
何やら二、三言葉を交わして、ギュッと抱き合う。
「体に気をつけるんだよ?」
「大丈夫だって、そんなに心配しないで」
明るく笑う幸人は普段着に着替えており、背中にリュックを背負っている。
その周辺に他の鞄は見当たらない。
「荷物はそれだけか?」
「はい、着替えくらいしかないんで」
幸人はスポーツキャップを身につけると、スニーカーを履く。
その背中からは故郷への郷愁や、親しい人との別れに対する悲しみなんてものは微塵も感じられない。
ちょっとそこまで行って帰って来るような手軽さで、幸人が笑った。
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