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「お世話になりました」 「後のことは任せなさい。こちらのことは気にせず、好きに生きるんだぞ」 「もう戻って来るんじゃないよ?」 「はぁい」  二人にペコリと頭を下げて、幸人が玄関を出る。 「それじゃ、行ってきまーす!」 ◆◆◆◆  そこからは実にスムーズだった。  後部座席に幸人を乗せ、すぐに村を出る。  不審な人間や後をついて来る車もなく、ぐねぐねと山道を下り、駅のある町へと戻って来た。  下っ端と別れて新幹線に乗り込めば、あとは三時間の移動を耐えるのみだ。 「うわぁ、めっちゃ速い!」  初めは瞳を輝かせて窓の外を見ていた幸人も、十分もすれば飽きたらしく、落ち着きなく辺りを見回している。 「まだまだ先は長ぇからなぁ。今のうちに飯でも食うか?」 「食べます!」   ホームで買った駅弁を取り出せば、幸人は興味津々で受け取った。  弁当はどこにでもある普通の幕の内弁当だ。  おかずは鮭の切り身に玉子焼き、煮物にフライ。米の上には黒ゴマと小梅が乗っている。  手を合わせて「いただきます」と言ってから、口に運ぶ。 「おいしー!」 「そりゃ良かった」  ニコニコしながら食事を進めている辺り、幸人は食べることが好きなのだろう。  箸で摘んだ玉子焼きをぱくりと口にする。 「しょっぱい玉子焼きだ」 「甘い方が好きか?」 「好きっていうか、婆ちゃんの作る玉子焼きがお菓子みたいに甘かったんで。そっちの方が食べ慣れてるんすよねぇ」 「あんまり飯のおかずにならないタイプの奴な」 「そうなんすよー。しかも砂糖の入れすぎで焦げやすいから、断面がしまうまみたいになってるんです」  幸人がクスクスと笑った。  他愛のない話をしながら食事を終えた頃、お茶を片手に幸人が言う。 「ねぇ、龍之介さん。質問のしあいっこしませんか?」 「唐突だな」 「だって、お互いいろいろ気になるでしょ? これから一緒に仕事するんだし、ちょっとでも仲良くなっておいた方がいいじゃないっすか」 「確かに、それは一理ある」  龍之介が肯首すれば「でしょ!」と幸人が胸を張る。 「我ながらナイスアイデアだと思うんすよねー。やっぱ人間関係って大事だし!」 「お互い、一度だけパスが出来るってことにしようぜ。答えたくないこともあるだろうしな」 「俺はNGなしっすよ? オバケのことから今までの経験人数まで、どんと来いっす!」 「どうせ童貞だろ」 「ちちち違いますよ!」  明らかに動揺する幸人を見て、龍之介がニヤリと笑う。  その顔を見て、からかわれたのだと気づいた幸人が口を尖らせた。

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