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◇
「手を握って、目を瞑ってください」
言われた通りに手を重ねれば、幸人の手のひらがヒヤリと冷たいことに気づく。
「お前、手冷たいな」
「冷え性なんです。龍之介さんの手はあったかいですね」
にぎにぎと何かを確かめるように握り返して、幸人が小さく頷く。
その神妙な面持ちを眺めていたら、不思議そうな視線が龍之介に向いた。
「なんですか?」
「いや、なんか分かるのかと思って」
「このくらいなら接続出来そうだなぁって思ってるだけです。ほら、早く目瞑ってくださいよー」
催促されて、龍之介は大人しく目を閉じた。
「俺の手に意識を集中させてください」
言われた通りにする。
自分と違って小さく、ゴツゴツしていない手。
冷たかった手のひらは、龍之介の体温が移って、徐々に温まってきていた。
「それじゃ、始めます。」
小さく息を吸う音がして、手の甲に幸人が触れる。
「奇一 奇一 、たちまち_ 運化 を結ぶ
。宇内 八方 五方 長男 たちまち九籤 を貫き
玄都 達し、 太一眞君 に感ず」
幸人が歌うように呪文のようなものを唱え始める。
それと同時に、握った手を通じて何かが流れ込むような感覚があった。
「
奇一奇一、たちまち感通。如律令 。……終わりましたよ」
幸人の手が離れて、龍之介はゆっくりと目を開ける。
生まれて初めて幽霊というものを見るのだ、多少の緊張はあった。
数年前に敵対組織に襲撃されて死んだ兄貴分や、組の金を横領し、土に還った元部下の顔を思い出す。
彼らが何か言いたげに立っていたり、怨めしい顔でこちらを見ている、なんてことがあるのだろうか?
「……ん?」
車両内をぐるりと見渡すが、そこに想像していたようなものはない。
知り合いも、半透明の足がない人間も、血みどろの死人も、何もない。
「おい、本当に見えるようになってんのか?」
「なってますよ。ただ、ここにおばけがいないだけで」
「……お前、嘘ついてねぇだろうな?」
「俺のこと疑うんすか?」
「当たり前だろ。見えるようになるっつっといて、ここにはいませんでしたーなんて、納得出来るか?」
呆れたようにため息をつく龍之介を見て、幸人が「それはそうですけど……」と視線を逸らす。
少し考える素振りをして、龍之介を見た。
「龍之介さんって、デッカい虫は大丈夫です?」
「デカいって、どのくらい?」
「このくらい」
幸人が両手で円を描く。
大体バスケットボールくらいの大きさの虫らしい。
「そんだけデカけりゃ多少ビビるな」
「じゃあビビってください。千福 、万福 」
にっこり笑って、幸人が虚空に呼びかける。
すると、何もない空間から溶け出すようにして、二匹の蟲が姿を現した。
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