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バスケットボールほどの大きさの虫。
一匹はオオスカシバによく似ていた。
鶯色と白の毛が生えた体、細長い脚に透明な翅。
人間のように白目のある三白眼が、ギロリと龍之介を見る。
もう一匹はカイコガだ。
シミひとつない真っ白でふわふわとした体に、大きな触角と可愛らしい黒い瞳。
飛べないはずのその虫は、おっとりと羽をはためかせて、幸人の膝に舞い降りる。
「……なんだこりゃ」
龍之介は確かめるように数度瞬きをした。
しかし、目の前に確かに存在する二匹の虫は、消えることなくそこにいる。
「護法 っていうんです。婆ちゃんが契約してた時はもっとかっこよかったんすけど、今はこんなになっちゃって……」
膝の上のカイコガを、幸人が優しく撫でる。
そうすれば、カイコガは気持ちよさそうに触角を動かした。
「コイツらも霊なのか?」
「うーん……ちょっと違います。分かりやすく言うなら、式神みたいな?」
式神といえば、平安時代の陰陽師、安倍晴明の逸話が有名だろう。
式神を使役して家事をやらせていたとか、様々な儀式に使用していたなんて話が後世に伝わっている。
「小さい頃から一緒にいたから、家族みたいなものなんです。……あ、紹介しますね。こっちが千福で、こっちが万福です」
千福と呼ばれたのがオオスカシバ、万福と呼ばれたのがカイコガだ。
「千福は早く飛べて、万福はふわふわしてるから、撫でると気持ちいいんすよ」
万福がふわりと飛び上がると、龍之介の膝に移動する。
恐る恐る触れてみると、確かにふわふわとしていて触り心地はいい。
虫というよりも、綿の詰まったぬいぐるみのようだ。
「他の連中には、コイツらが見えてねぇのか?」
「試してみましょうか」
幸人が言うと同時に、千福が飛び出した。
座席の間を縫うようにぐるりと旋回するが、誰一人として驚くことはない。
それどころか、居眠りする男の体をすり抜けて帰って来る。
「ビックリしましたか?」
得意げに胸を張る幸人に、龍之介が頷いてみせる。
目の前でこんなものを見せられては、霊的なものの存在を信じざるを得ないだろう。
手品だのバーチャルだのと、往生際の悪いことを言ってまで否定する気はない。
「信じるよ。お前は本物だ、俺が保証する」
言えば、幸人が嬉しそうに顔を綻ばせる。
役目を終えた千福と万福が、空気に溶けるようにして消えた。
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