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1-6.アイスと消えた女の子の話

 一緒に買った熱電気スプーンでアイスクリームを掬い、一口頬張る。 「おいしー!」  口の中に広がるバニラの優しい甘みに、瞳を輝かせる。  ニコニコと食べ進める幸人を見て、龍之介も口元を綻ばせた。 「そんなに美味いか?」 「はい! なんか、濃厚っていうんすかね? いつも食べてるのより美味しいです」 「へー、村にもアイスがあんのか」 「あ、今バカにしたでしょー。アイスくらいありますよ! 種類は少ないけど」  口を尖らせた幸人に「悪い悪い」と言いながら、自身のアイスクリームカップを差し出す。 「詫びと言っちゃなんだが、一口食うか?」 「え、いいんですか?」  途端、嬉しそうに笑う幸人がカップを受け取った。 「これ、チョコレート味ですか?」 「あぁ」  バニラよりも少しばかり固い茶色のアイスをスプーンで掬って、ぱくりと食べる。  その瞬間、幸人は顔を顰めた。 「に、にがい……」  耐えるようにぷるぷると震えながら、口直しにバニラアイスを放り込む。  予想通りの反応をした幸人を見て、龍之介はくつくつ笑った。 「なんですかこれ! ほんとにチョコレート?」 「知らねぇか? 高カカオチョコレート」  幸人の目の前でアイスを食べて「うん、美味い」と呟けば、信じられないという顔で見つめられる。 「お前、やっぱからかいがいがあるわ」 「……さっきの言葉、撤回します。龍之介さんは意地悪です!」  涙目で睨まれても、かわいいだけで迫力はない。  どこ吹く風でアイスを口に運ぶと、龍之介は幸人に視線を向ける。 「もう質問はないのか?」 「龍之介さんはどうしてそんなに意地悪なんですか?」 「俺の意地が悪いっつーか、お前の反応が良いからからかいたくなるんだよなぁ」 「俺のせいにしないでください!」  ツンとそっぽを向いた幸人を見て、龍之介が笑う。  暗い顔をしているよりも、こちらの方がよっぽど良い。 「仕事のことは聞かなくていいのか?」 「聞きます、けど……」 「けど?」 「なんかムカつく……」  不機嫌さを隠そうともしない幸人は、龍之介にとってあまり出会ったことのないタイプの人間だった。  組長の孫という立場上、幼い頃から周囲の人間は龍之介の機嫌を窺っていたし、体格がよく、堅気ではない雰囲気を漂わせている龍之介と、"普通の人々"は距離を置きたがった。  わざわざ近づいて来る者は、大体腹に一物を抱えている者ばかりだ。 (ま、俺がヤクザだって知ったら、コイツもビビっちまうだろうがな)  龍蔵の元に着けば、すぐにバレることなのだが……。  それでも、無邪気に笑いかけてくるこの少年が、萎縮し距離を取る姿は見たくないと思ってしまう。

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