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「まぁ、俺も一応プロだし? 大人なんで。仕事に私情は挟みませんけど」  言葉尻に棘のある言い方をして、幸人がメモ帳とペンを取り出した。  わざわざ声に出す辺りが子どもっぽいのだが、指摘はしないでおく。  そのかわり、龍之介は幸人を撫でた。 「なんですか?」 「いや、お前が大人で良かったと思ってな」 「そうですよ、感謝してくださいね」  言って、ふふんと幸人が鼻を鳴らす。  あくまでも不機嫌である、というスタンスは崩さないように頑張っているが、笑みを隠しきれない口元が可愛らしい。 (コイツ、チョロいなぁ……)  幸人の機嫌を治すには、とりあえず褒めておくか、食べ物で釣るのが効果的なようだ。 「えーっと、姪っ子さんが行方不明になったんすよね?」 「あぁ」 「まずはその子の名前と年齢を教えてください」 「郡司結奈、秋で十歳になる」 「あ、七歳越えてるんですね。なら手が出せるので良かったです」  メモ帳にサラサラとペンを走らせながら、幸人が呟く。 「七歳未満じゃ問題があんのか?」 「聞いたことありませんか? "七つまでは神のうち"ってやつ。もしも七歳未満の子を神様が攫って行ったんなら、手を出しちゃいけないことになってるんです」 「なんでだ?」 「神様ルールってやつです。七歳までなら攫ってもセーフ、みたいな決まりがあるんですよ」 「なんだそりゃ。神ってやつは、人を守るもんだと思ってたんだがなぁ……」 「まぁ、八百万の神って言いますし。守ってくれる時もあれば、そうじゃない時もあるって感じっすね」  さも当然のように言って、幸人が笑う。  祟り神だの疫病神だの、神と名のつくものにも様々な種類がある。  そう考えれば、人間に害をなす神なんて、そう珍しくないのかもしれない。 「でも、とりあえず第一関門はクリアです。あとは事件の詳細っすね。連続神隠し事件でしたっけ?」 「あぁ、結奈を入れて三人行方不明になってる」 「なるほど……。連続って呼ばれてるし、被害者の方に共通点とかある感じです?」  幸人が小さく首を傾げる。  頷くと、龍之介は部下に調べさせた情報を思い返した。 「全員が同じ地区に住んでることと、三人とも目撃情報が一切出てないってことくらいだな。監視カメラにも映ってなきゃ、目撃者も出てこない。突然煙みたいに消えちまったってわけだ」 「だったら、幽霊の仕業ではなさそうっすねー」  メモを取りながら幸人が言う。 「んなこと分かんのか?」 「分かりますよ。幽霊って、とり憑いて連れて行くことは出来ても、痕跡を残さずに消すことは出来ないんですよ。人間にも難しいと思うんで、十中八九、神様か妖怪の仕業だと思います」  それはそれで面倒なんだけど、と呟いて、難しい顔をした幸人がペンを下唇に当てる。  幽霊、神、妖怪。  話がどんどん浮世離れしてきて、にわかには信じられない。  この世には目には見えない何かがいる、と知ったばかりの龍之介は、目元を手のひらで覆ってため息をついた。 「頭がパンクしそうだ……」 「でしょうね。まぁ、最低でも手掛かりくらいは見つけられるんで。大船に乗った気でいてください」  胸を張った幸人が、頼もしい笑みを浮かべた。

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