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1-7.田舎のネズミ、都会へ

「ひぇぇ……」  新幹線が駅に着き、行き交う人の波を目の当たりにした幸人は、小さく悲鳴をあげて龍之介にしがみつく。 「なんだ、ビビってんのか?」 「当たり前じゃないっすか! こんなに人が多いなんて……」  龍之介の腕をギュッと掴み、身を寄せる幸人が可愛くて、思わず頭を撫でた。 「いいか? この人の数じゃ、迷子になったら二度と見つけてやれねぇからな。遭難したくなけりゃ、しっかりついて来いよ?」  バカ真面目な表情とトーンで言ってやれば、幸人が青い顔で頷いた。  からかったつもりなのだが、思いの外信じ込んでいるらしい。  歩きにくいほどピッタリとくっついてくる幸人に悟られないように、龍之介は笑みを堪える。 「……龍之介さん。あそこ、オバケいる」 「どこだ?」 「コンビニの横、スーツの男の人」  幸人の言葉通りの場所に視線を巡らせれば、人の間からサラリーマン風の中年男性が見えた。  風貌はどこにでもいる普通の男だ。  だが、その雰囲気が異質だった。  猫背でだらりと両腕の力を抜いた立ち姿。  しかし、顔は斜め上を向いており、虚空を眺める目の焦点は合っていない。  そして、通り過ぎる人も、コンビニに入る客も、誰もその男に目もくれないのだ。 「おぉ……初めて見たぜ」 「気付かれるとついて来るから、早めに通り過ぎましょう」 「幽霊ってのはみんなああなのか?」  魂ここに在らず、といった様子で立ち尽くす男を横目に、二人は歩く。  体験談として語られる幽霊や、様々なホラー作品に登場するそれらとは、随分と雰囲気が違うと龍之介は思った。 「たまに死んだ後、記憶が飛んじゃう人がいるんです。あの人も、自分が誰なのか、どうしてみんな無視するのか、なんにも分からないまま彷徨ってるんだと思います」 「なんか……声とか掛けてやんなくていいのか?」  そう問えば、幸人がにこりと笑った。 「龍之介さんは優しいですね」 「いや……どう接したらいいか分からねぇだけだ」  気まずそうに龍之介が後ろ頭をかく。  幽霊とはいえ人の形をしている以上、あまり無体な態度は取れないだろう。  それにあの男の様子が、幽霊として通常なのか、異常なのかも分からない。  自分が死んだことにも気づけないのは哀れだ。 「大体は一時的なものなんで、放っておけば大丈夫っすよ。そのうち全部思い出して、然るべきところに行きますから」 「そういうもんなのか?」 「そういうもんです」  専門職が言うのなら、そうなのだろう。  龍之介も気にするのはやめにする。 「それにしても、幽霊見たら落ち着いたな。さっきまであんなにビビってたのに」 「都会も田舎もオバケに違いはないんだなって思ったら、ちょっと安心しました」  幸人が照れたように笑う。  しかし、その手は龍之介の腕をギュッと掴んだままだ。 「ま、そのうち慣れるさ」 「だといいんすけど……ちょっと自信ないかも」  スマホの画面と睨めっこをしながら、ひょいひょいと器用に人を避けて歩く若者を見て、幸人が呟いた。

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