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 駅構内を出て、真っ先に幸人の目に飛び込んできたのは、背の高い建物とたくさんの車だ。  山と畑しかない場所から出て来たばかりの幸人にとって、それはとても新鮮だった。 「口開いてんぞ」  感心して上を見上げていた幸人が、龍之介に言われて慌てて口を閉じる。 「修学旅行で一回くらい来たことねぇのか?」 「村から離れる行事は、参加させてもらえなかったんで」 「徹底してんなぁ」  ため息混じりに言って、龍之介が歩き出す。  列車内での幸人との会話からして、出来る限り外界と隔てて育てることで、供犠という異常な役目に疑問を抱きにくくしたかったのだろう。  みんなが喜ぶなら死んでもいい、という発言が出てくる辺り、村人たちのその努力はある程度実っているように見える。 「婆さんは、お前が生贄になることに反対しなかったのか?」 「自分の人生は自分で選びなさい、って言われてましたから。村に残ることも、逃げることも、どっちも否定されませんでした」  自分の孫をそれだけ突き放せるのもすごいことだ。  だが、社会に出たこともない子どもに、その選択は酷だろう。 「だから、ちゃんと選んだんすよ? 龍之介さんに賭けてみようって」 「そうか。なら、後悔させねぇようにしないとなぁ」  得意げに笑う幸人の頭を撫でてやった時だった。  駅前のロータリーに止まった車から出て来た強面の男が、二人を見てギョッとした顔をする。  その口元は明らかに引き攣っており、仲睦まじく腕を組んだ(ように見える)龍之介と幸人を交互に見比べていた。 「……お疲れ様です、郡司さん」  しかし、男は何を言うでもなく頭を下げて、龍之介を出迎える。  眉間に寄った深い皺に、鋭い眼差し。  首筋には大きなトライバルタトゥーが入っている。  そんな男がギロリと視線を向けるものだから、幸人は思わず龍之介の背中に隠れた。 「原田ぁ。お前、もうちょっとにこやかに出来ねぇのか?」 「……っす」  男は無愛想に返事をして、後部座席のドアを開ける。  原田と呼ばれたこの男は、龍之介のお気に入りである部屋住みの一人だ。  余計なことを喋らず、命令は忠実にこなす。  細かいことにもよく気がつく男だが、いかんせん愛想がないのが玉に瑕だった。 「コイツは元から顔が怖くて無口なだけだから、気にしないでくれ」 「はい……」  促されるままに車に乗り込んで、シートベルトを着ける。  隣に龍之介が座れば、男がドアを閉めた。

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