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1-8.黒縄組組長本宅
車を運転しながら、原田は内心困惑していた。
龍之介は龍蔵譲りの男気を持ち、下っ端からも慕われる人物ではあるが、決して甘いわけではない。
部下がミスをすればしっかり落とし前をつけさせるし、数ヶ月前に事務所の金を盗んで逃げた部屋住みは、連れ戻されて生きたまま地中深くに埋められたのである。
顔色一つ変えずに他人を踏みにじることだって出来る男が、連れ帰った見ず知らずの少年を、それはもう大切そうに慈しんでいるのである。
(まさか郡司さん、ショタコンじゃないよな……)
原田は口数の少ない男だが、心の中まで無口なわけではない。
明らかに他人ではない距離感で駅から出て来た二人を見た時なぞ、パパ活でもしているのかと、一人で悶々と悩んでいたのである。
(郡司さんの趣味がどうだろうと、俺には関係のないことだ……)
そう自分に言い聞かせ、原田は車の運転に集中しようとする。
しかし、後部座席から聞こえて来る、楽しそうな声が耳について気が削がれる。
そもそも、あの少年は何者だ?
龍之介からは、組長の知り合いである霊能力者の老婆を迎えに行くと聞いていたのだ。
それなのに、今この空間には老婆とは真逆の少年がいる。
何故ヤクザとあんなににこやかに会話が出来るのか?
二人はどんな関係なのか?
霊能力者の件はどうなったのか?
いくつも浮かぶ疑問をグッと胸に押し留めて、原田は目的地を目指した。
◆◆◆◆
和風門を潜って、車が日本家屋の敷地内へと進む。
広い駐車場に車を停めると、原田は運転席から降り、後部座席のドアを開けた。
「ユキ」
先に降りた龍之介が手を差し伸べて、幸人はその手を取って車を降りる。
「今、ユキって呼びました?」
「嫌か?」
「いえ。婆ちゃんがそう呼んでくれてたんで、嬉しいです」
照れたように笑ったあと、幸人が広い庭を見渡す。
「ここが龍蔵さんのお家ですか? なんか、すごいっすね……」
美しく剪定されたツツジはたくさんの花を咲かせ、庭の片隅にある鹿威しがカポン、と音を立てる。
これだけの庭を維持するには、それなりの金額と労力が必要だろう。
その上、日本家屋は武家屋敷かと思うほど立派だ。
「龍蔵さんって、何してる人です?」
「あー……ヤクザ」
「へ?」
「ヤクザなんだよ、俺も爺さんも」
ポカンと龍之介を見上げていた幸人の表情が、言葉の意味を理解すると同時に、みるみるうちに驚きの色に染まっていく。
あぁ、やっぱりこうなるのか。と、龍之介は心の片隅で思った。
「や、ヤクザ?」
「おう。……怖いか?」
「怖いか怖くないかって言ったら、怖いですけど……」
おずおずと呟いた幸人に、そうかとだけ返す。
これで、先ほどまでの軽口を叩き合うような関係には戻れないだろう。
それが、なぜか無性に残念だった。
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