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「でも、龍之介さんは怖くないですよ?」 「うん?」 「だって、龍之介さんは俺に優しくしてくれたでしょ? だから、怖くないです」  屈託のない笑顔を向けられて、今度は龍之介がポカンとする番だった。  その表情を見て、幸人がクスクスと笑う。 「もしかして、俺がビビって逃げ出すと思ってました?」 「あぁ」 「そんなことするわけないじゃないっすか! 俺はプロですよ? 引き受けた仕事はちゃんとこなします」  えっへんと胸を張る幸人の髪を、龍之介がわしゃわしゃと、子犬でも撫でるようにしてかき回す。 「わ、やめてくださいよー!」 「お前がかわいいこと言うのが悪い」 「そこはかわいいじゃなくて、男前ー! とか、器が広い! って言うとこでしょ!」  乱れた髪を押さえながら、幸人がムッと口を尖らせる。  そんな幸人を見下ろしながら、龍之介は目元を緩ませた。  自分が何者であるか明かして、拒絶されなかったことが嬉しかった。 「ありがとな、ユキ」  最後に優しく撫でてやれば、幸人が照れくさそうに笑った。  この少年の前では、出来るだけヤクザとして振る舞うことをやめようと龍之介は決める。  無駄に怖がらせるようなことも、自分の仕事に巻き込むこともしない。  ありのままの龍之介を受け入れてくれたのだから、自分もそれに応えるべきだと思ったのだ。 「行きましょう。俺、早く龍蔵さんに会ってみたいです!」 「ただのジジイだぞ?」 「それでも、小さい頃の俺にとってはヒーローでしたから」  祖母の語る寝物語に登場する龍蔵は、どんなに怖い怪異もなぎ倒し、事件を解決してしまうヒーローだった。  そんな憧れの人に会えると知って、幸人は足取り軽く玄関へと向かうのだった。 「お勤めご苦労さまです、龍之介坊ちゃん」  玄関を開けて真っ先に目に飛び込んできた光景は、ガタイのいいスキンヘッドの男が、深々と腰を折って頭を下げる姿だった。  早速現れた見るからにヤクザ、という風体の男に面食らって、幸人が龍之介の背中に隠れる。 「おう、お疲れさん」 「親父が部屋でお待ちです」  分かったと返して、龍之介が玄関に上がった。  幸人はスキンヘッドの男に小さく会釈をしてから、慌ててその後を追う。 「お前は爺さんの客だから、誰も因縁なんかつけてこねぇぞ? もっと堂々としてろ」 「無理ですよ……! ここにいる人たち、みんな怖いじゃないですか!」  先ほどのスキンヘッドの男もそうだが、すれ違う男たちは皆、独特の空気感を持っていた。  殺気とでも言うのだろうか? 近づきがたい何かが出ているような気がして、幸人は居心地の悪さに縮こまる。

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