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「さっきまでウキウキだったじゃねぇか」 「だって、こんなに空気が重いと思わなくて……」 「結奈の件でみんな気が立ってんだ、許してやってくれ」  ぽんぽんと頭を叩かれて、幸人が頷く。  長い板張りの廊下を歩くと、綺麗に整えられた木々が並ぶ庭が目に入る。  梅や紅葉の木を見て、季節ごとに色とりどりの花が咲くのだろうな、と幸人は思った。  ちゃぽんと音を立てて、池を泳いでいた鯉が水面を叩く。 「あの、龍之介さん」 「ん?」 「供犠のことは、黙っておいてください。俺も婆ちゃんも、普通に暮らしてましたってことで」  少し後ろを歩く幸人に視線をやれば、彼は困ったように笑った。 「分かった、爺さんには黙っとく」  事情が事情だ、下手な話をして村に乗り込んで行かれても困る。  了承すれば、幸人がほっと息をついた。 「爺さん、俺だ」 「おう、来たか!」  奥座敷の前で声をかければ、室内からすぐに返事が返ってくる。  龍之介が手をかけるよりも早く障子戸が開き、中から顔を出したのは龍蔵だ。  彼は幸人の姿を見とめると、みるみるうちに破顔する。  その表情は、自身のひ孫たちに向けるものと同じだ。 「長旅で疲れたろう、入れ入れ!」 「あ、はい。失礼します」  龍之介は完全に眼中にないらしい。  龍蔵は幸人の肩を抱くと、室内へと招き入れる。 (こりゃ相当浮かれてんなぁ)  二人の後に続いた龍之介は、部屋の真ん中に置かれた机の上を見て、頭を抱える。  卓上のど真ん中を陣取る菓子盆には、ポテトチップスからチョコレートまで、さまざまなお菓子が所狭しと並んでいた。 「何が好みか分からんから、うちの若いもんに適当に見繕わせたんだが……」 「大丈夫です、お菓子が嫌いな子どもはいませんから!」 「お前、さっきまで自分は大人だとか言ってなかったか?」 「臨機応変な対応ってやつっす」  小声で問えば、帽子を脱ぎながら、同じように小声で幸人が答える。  どうやら、都合の良い時だけ、大人と子どもを使い分けるつもりのようだ。  いい根性をしているというか、食い意地が張っているというか……。  龍之介が呆れたように幸人を見る。 「そうかそうか、遠慮せずに全部食べなさい!」  お菓子の山を前に瞳を輝かせる幸人を見て、気をよくした龍蔵が豪快に笑う。  用意された来客用の和座椅子に腰掛けると、幸人は早速マシュマロに手を伸ばした。 「美味しいです!」 「そりゃ良かった!」  ニコニコとお菓子を頬張る幸人と、その様子をニコニコと眺める龍蔵。  ヤクザの組長の本宅とは思えないほど和やかな空気が、室内に広がる。 「失礼します」  そこに組長付きの男が、お盆を持ってやって来る。  木製のお盆に乗ったのは、三つのティーカップとティーポット、そして味の違う三つのケーキだ。

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