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「好きなものを選びなさい。なんなら、儂のぶんもやろう」 「おいこら、ジジイ。晩飯前にガキにこんなもん食わせんな。山崎、下げろ」 「何を言うか、成長期はなんでもどんどん食うべきだ。置いてけ山崎ぃ」  龍之介と龍蔵の間に挟まれた組長付きの男……山崎が右往左往している。  頬に傷のある強面の男が困っている様を見かねて、思わず幸人が控えめに挙手する。 「あの。俺、意外とたくさん食べるタイプなんで……大丈夫ですよ?」 「ダメだ。こういうジジイは甘やかすとどんどんつけ上がるぞ、今のうちにきっちり分からせとけ」  龍之介の言い草に、龍蔵がムッとした顔をする。  幸人としては、この場で二人が喧嘩を始めるのではと気が気じゃない。 「さっき龍蔵さんも言ってたでしょ? 食べきれなかったら持って帰ればいいって。……だから、一個だけ食べてもいいですか?」  うるうるとした瑠璃色の瞳が、上目遣いに龍之介を見上げる。  不安げに眉を寄せ、機嫌を窺うようなその視線を受けて、龍之介は少しばかりたじろぐ。 「俺、こんなに綺麗なケーキって初めてで……。でも、龍之介さんがダメって言うなら、我慢します」  しゅんと俯いた幸人は、まるで叱られた子犬のように見える。  まるで自分がいじめているような気分になって、龍之介はため息をついた。 「……一つだけだぞ」 「やったー! 龍之介さん大好きっ!」  途端、花が咲くように笑った幸人が、お盆の上のフルーツタルトを受け取った。  いちごやマスカット、ブルーベリーなど、様々なフルーツが乗った華やかなタルトを手渡すと、山崎がそそくさと部屋を出て行く。 「龍之介よぉ……」 「あ?」 「血は争えんなぁ。儂も朱鷺子さんにあんな顔で"お願い"されると断れんくてなぁ」  幸せそうにフルーツタルトを食べる幸人を見て、龍蔵がふっと笑う。  確かに、龍之介から見ても幸人は愛らしい容姿をしている。  ケーキ食べたさに泣き落としをして見せるしたたかさでさえも、微笑ましく思ってしまう自分がいることにも気付いていた。  しかし、龍蔵の口から自分たちは同じだと言われると、何故だか反発したくなる。 「やはり孫だなぁ。若い頃の朱鷺子さんにそっくりだ」 「そうなんですか?」 「あぁ、特に目元がよく似とる」  瑠璃色の視線を受けて、龍蔵が懐かしそうに瞳を細めた。

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