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◇
「好きなものを選びなさい。なんなら、儂のぶんもやろう」
「おいこら、ジジイ。晩飯前にガキにこんなもん食わせんな。山崎、下げろ」
「何を言うか、成長期はなんでもどんどん食うべきだ。置いてけ山崎ぃ」
龍之介と龍蔵の間に挟まれた組長付きの男……山崎が右往左往している。
頬に傷のある強面の男が困っている様を見かねて、思わず幸人が控えめに挙手する。
「あの。俺、意外とたくさん食べるタイプなんで……大丈夫ですよ?」
「ダメだ。こういうジジイは甘やかすとどんどんつけ上がるぞ、今のうちにきっちり分からせとけ」
龍之介の言い草に、龍蔵がムッとした顔をする。
幸人としては、この場で二人が喧嘩を始めるのではと気が気じゃない。
「さっき龍蔵さんも言ってたでしょ? 食べきれなかったら持って帰ればいいって。……だから、一個だけ食べてもいいですか?」
うるうるとした瑠璃色の瞳が、上目遣いに龍之介を見上げる。
不安げに眉を寄せ、機嫌を窺うようなその視線を受けて、龍之介は少しばかりたじろぐ。
「俺、こんなに綺麗なケーキって初めてで……。でも、龍之介さんがダメって言うなら、我慢します」
しゅんと俯いた幸人は、まるで叱られた子犬のように見える。
まるで自分がいじめているような気分になって、龍之介はため息をついた。
「……一つだけだぞ」
「やったー! 龍之介さん大好きっ!」
途端、花が咲くように笑った幸人が、お盆の上のフルーツタルトを受け取った。
いちごやマスカット、ブルーベリーなど、様々なフルーツが乗った華やかなタルトを手渡すと、山崎がそそくさと部屋を出て行く。
「龍之介よぉ……」
「あ?」
「血は争えんなぁ。儂も朱鷺子さんにあんな顔で"お願い"されると断れんくてなぁ」
幸せそうにフルーツタルトを食べる幸人を見て、龍蔵がふっと笑う。
確かに、龍之介から見ても幸人は愛らしい容姿をしている。
ケーキ食べたさに泣き落としをして見せるしたたかさでさえも、微笑ましく思ってしまう自分がいることにも気付いていた。
しかし、龍蔵の口から自分たちは同じだと言われると、何故だか反発したくなる。
「やはり孫だなぁ。若い頃の朱鷺子さんにそっくりだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、特に目元がよく似とる」
瑠璃色の視線を受けて、龍蔵が懐かしそうに瞳を細めた。
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