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 少しの間、昔を思い返すように幸人を見つめていた龍蔵だったが、すぐに表情を引き締める。 「郡司龍蔵だ。突然呼び出してすまないな、遠いところからよく来てくれた」 「幸人です。龍蔵さんのことは、婆ちゃんからたくさん聞いてます」 「ほう、変な話じゃなきゃいいんだがな!」  龍蔵が豪快に笑う。  朱鷺子の話に出てくる龍蔵は、正義漢で義理人情に厚く、時折後先考えずに突っ走って、痛い目を見るような男だった。  よく龍蔵の尻拭いをさせられていた、と愚痴る祖母の姿を思い出して、幸人は懐かしさに瞳を細めた。 「依頼については龍之介から聞いているかね?」 「はい。結奈ちゃんを探せばいいんですよね?俺 「あぁ、その通りだ。出来そうかい?」 「大丈夫です。ただ……」  幸人が言いにくそうに視線を泳がせる。  龍蔵は、無言でその続きを促した。 「必ず生きて返す、という約束は出来ません。俺が見つけた時点で、もう手遅れの可能性もあるので……」  結奈が行方不明なってから、既に四日が経過している。  連続神隠し事件の犯人の意図が分からない以上、被害者たちの命は保証できない。  せいぜい、遺体の発見が限界の可能性もある。 「もちろん、理解しているとも。例え死んでいたとしても、結奈を家に帰してやりたいんだ」  龍蔵が寂しげに微笑む。  愛する家族を弔うことも出来ない辛さは、幸人にも分かっていた。  その瞬間に囚われ、前に進むことも出来なくなってしまった人たちを、祖母の元で幾人も見て来たからだ。 「結奈が死んでたからって、お前を責めるやつはいねぇよ」 「うむ。我々では、見つけてやれそうにないからな。感謝こそすれ、恨むのはお門違いだ」  二人の言葉に内心でホッとする。  失踪者の捜索依頼では、望まぬ現実を突きつけられ、行き場のない怒りを投げつけて来る依頼者も珍しくない。  結奈の両親がどうかは分からないが、少なくとも四面楚歌という状況に陥ることはなさそうだ。 「ありがとうございます……。精一杯やらせて頂きます」 「頼んだぞ。……ところで、どこに滞在するのかは決まっているのかね?」 「はい、龍之介さんのところでお世話になるつもりです」  その言葉を聞いて、龍蔵が驚いたように目を丸くする。 「龍之介が了承したのかね?」 「むしろ、龍之介さんの方から家で面倒見るって言ってくれました」  龍蔵がほう、と感心したような声を漏らし、生暖かい視線を龍之介に向ける。 「珍しいこともあるもんだ、あの龍之介がなぁ……」 「田舎から上京して来たばっかで、右も左も分からねぇチビすけを放り出すほど、薄情じゃねぇってことだよ」  居心地悪そうに腕組みした龍之介の隣で、幸人がムッと眉をしかめる。 「俺、チビじゃないですけど」 「俺からすりゃ、お前は充分チビだ」 「それは龍之介さんがデカいだけでしょー!」  ぷぅ、と頬を膨らませた幸人がそっぽを向く。  確かに龍之介は高身長に部類されるくらいには背が高い。  かたや幸人の身長は、同年代の平均値にも足りていなかった。  そんな二人が並ぶと、頭一個分ほどの差が出る。 「俺はまだ成長期ですから、これから伸びるんです!」 「分かった分かった。ほら、コレ美味いから食ってみろ」  菓子盆の上から適当なお菓子を摘んで幸人の口に押し込んでやれば、不機嫌丸出しだった幸人の表情がぱぁ、と明るくなる。  もくもくと咀嚼していた幸人だったが、自分を見る二人の微笑ましい目に気づいて、頬を引き締めた。

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