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「と、とにかくですね、住むところの心配はいらないです!」
こほんと咳払いをする幸人に、龍蔵が笑いかける。
「龍之介が一緒なら安心だろう。こう見えて面倒見のいいやつだ、遠慮せずになんでも言いなさい」
「はい、思いっきりこき使います!」
「お前なぁ……」
黒縄組の若頭をこき使うなんて言えるのは、せいぜい組長くらいなものだ。
今の発言を山崎が聞いていたら、目玉をひん剥いていたことだろう。
ため息をついた龍之介を見て、龍蔵が豪快に笑う。
「龍之介、お前はこのまま幸人くんを手伝いなさい」
「言われずともそのつもりだ。他の連中じゃついて行けねぇだろうからな」
ただでさえ龍蔵が霊能力者を頼ったことは、組内部でちょっとした話題になっているのだ。
霊的なものを信じていない人間は、もちろん組内にも存在しているし、霊能力者を詐欺師と決めつけて、毛嫌いする者もいる。
龍蔵の人選を信用していないわけではないが、後ろ盾に若頭が付いているとなれば、幸人も動きやすいだろう。
そして、何よりも気を使うべきは村の存在だ。
結奈が見つかる前に幸人をさらわれた、なんて状況になれば目も当てられない。
(守ってやるって約束したからな)
龍之介ががしがしと頭を撫でれば、幸人が怪訝な表情を向ける。
「えぇと、出来れば結奈ちゃんのご両親から、直接お話を聞きたいんですけど……」
「分かった。明日会えるように、こちらで話を通しておこう。後のことは任せたぞ、龍之介」
「任されてもなぁ。正直、まともに取り合ってもらえるかどうか……」
龍之介が困ったように頭をかいた。
結奈の父親は、龍之介の実の兄だ。
冷静沈着な男だが、いかんせん頭が固いことが玉に瑕なのである。
今回の失踪事件が霊的なものの仕業であると訴えたところで、簡単には信じて貰えないだろう。
「もしかして、幽霊とか信じないタイプの人ですかね?」
来るべき実兄との話し合いの場を想像し、ため息をついた龍之介を見て、察した幸人が問う。
「むしろ毛嫌いしてる。例え実物を見たとしても、信じるかどうか……」
「あ、大丈夫です。信じてもらえなくても捜索はするんで」
幸人が安心させるようにニコリと笑うが、龍之介の心配事はそれではない。
普段から冷徹だの気難しいだのと言われている兄だが、事件以降、側近であっても近づくのを躊躇う程度に気が立っている。
正直、苛立ちに任せて幸人に何を言うかも分からない。
龍之介としては、こちらの事情で連れて来られた少年が、理不尽に傷つけられるようなことにはしたくなかった。
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