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◇
(とにかく、なんか考えとかねぇとな……)
出来る限り穏便に、結奈の情報だけを聞き出してさっさと帰る。
下手に幸人に会話をさせれば、手が出る可能性もある。
「して、幸人くんはスマートフォンは持っているのかね? 出来れば捜索状況のやり取りをしたいのだが」
「あ……。その、持ってないんです。村には携帯ショップが無かったので」
幸人が取り繕うように笑う。
持っていないのではなく、持たせてもらえなかったのだろう、と龍之介は思う。
「そうか。なら、儂からプレゼントさせてくれ。明日の昼までには届けよう」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんだ。これから先、スマホの一つもなくては不便だろうからなぁ」
キラキラと瞳を輝かせた幸人が、ありがとうございますと頭を下げる。
その様子を見て、龍蔵は満足そうに笑った。
「本当なら、歓迎会の一つでも開きたいところだが……今はこんな状況だ。すまないが、勘弁してくれ」
「いえ! ケーキもすごく美味しかったですし、本物の龍蔵さんに会えて嬉しかったです」
ニコニコと笑う幸人を見て龍蔵も頬を綻ばせる。
そして、ふと何かを思い出したように膝を叩くと、文机へと向かった。
「そうだ、コレを渡そうと思っていたんだ。何かの役に立つといいが……」
そう言って幸人に手渡したのは、革製の黒手袋だ。
ところどころに小さな傷や擦り切れがある辺り、かなり使い込まれたものだと分かる。
「もしかしてこれ、婆ちゃんが術をかけてますか?」
「ほう、やはり分かるか」
こくりと頷いて、幸人が興味深そうに黒手袋に視線を落とした。
表面の革を撫で、内側に触れる。
「すごい……まだ術式が生きてる」
感心したように呟いて、幸人は真剣な表情で何かを考える。
しばらくして、龍蔵に黒手袋を返した。
「ありがとうございます、めちゃくちゃ助かりました」
「必要なら、持って行ってもいいんだぞ?」
「いえ、これなら真似して作れそうだから。龍蔵さんが持っててください」
「なら、そうしよう」
幸人から黒手袋を受け取ると、龍蔵は大切そうにそれを引き出しの中に納めた。
◆◆◆◆
顔合わせを終えて本宅を去る幸人に、龍蔵は山ほど菓子の入った袋をいくつも持たせた。
両手いっぱいに抱えても幸人一人では持ち切れなかったため、龍之介も一緒に車まで運んだほどだった。
「龍蔵さん、いい人でしたね」
「お前が相手だからな、猫被ってたんだろ」
原田の運転する車で、二人は帰路を辿る。
目指すは龍之介の家だ。
幸人を見る龍蔵の顔を思い出して、龍之介は苦笑する。
あれは完全に、ひ孫たちに向けられる祖父としての顔と同じだった。
デレデレしながら幸人を甘やかすその姿は、決して下の者たちに見せられるものではない。
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