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◇
(寛げって言われても……)
どれもこれも高そうな家具ばかりで、汚してしまわないか心配になる。
悩んだ末に、幸人は背負っていたリュックを床に置き、絨毯の上にちょこんと正座した。
「なんでそんなとこ座ってんだ?」
「その、緊張しちゃって……汚したら責任取れませんし」
「言っとくけど、ソファよりそのラグの方が高いぞ」
「ひぇっ!」
幸人が飛び上がるようにして立ち上がると、ソファの上に移る。
「なんか飲むか? っても、お前が飲めそうなもんは水かお茶くらいしかねぇけど」
「全然、水道水で大丈夫っす……」
先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか、幸人は完全に借りてきた猫のように縮こまっている。
龍之介はミネラルウォーターを注いだグラスを二つ、ローテーブルの上に置いて、自分もソファに腰掛けた。
(明日辺り、ココアかなんか買っとくか)
普段から他人を家に招くことを避けているため、今客に出せる飲み物は、酒かミネラルウォーターだけだ。
二十歳を迎えていない幸人に酒は出せないため、必然的にミネラルウォーターしか選択肢がなくなる。
一応、人から貰った茶葉だのコーヒー豆だのがあるが、高カカオチョコレートのアイスを食べた時の反応を見るに、幸人は苦いものが苦手なのだろう。
コーヒーは論外、お茶に関しては龍之介に知識がないため、上手く淹れられる自信がない。
「こんなもんしかなくて悪いな」
「いえ、美味しいです」
美しい模様の入ったカットグラスを慎重に持ち上げて、幸人が口を付ける。
実家にあったコップと明らかに厚みや重さが違う辺り、これも高いに違いない。
「トイレは廊下に出てすぐと二階にあるから、好きな方使ってくれ。それと風呂沸かしてっから、先に入っちまえよ」
「家主を差し置いて、一番風呂を貰うわけには……」
「んなこと気にすんな。着替えは持ってんだろ?」
「あ、はい」
龍之介に聞かれて、幸人はリュックを手に取った。
中にはトラベルセットと、今着ているものと同じデザインの服とズボンが二着、下着が畳んだ状態で入っている。
ゴソゴソと荷物を取り出す幸人を見ていた龍之介が、呟くように言う。
「お前、マジで荷物が少ないな……」
「お寺では和服着てたし、このくらいしか手元に無くて」
「そういやお前の家、解体してたよな。他のもんは持ち出さなかったのか?」
半壊した家を思い出して龍之介が言うと、幸人が困ったように眉尻を下げる。
「あれ、婆ちゃんが死んでから勝手に決められてたんです。家の中のものは村長が全部持って行きました」
「はぁ?」
予想だにしない答えが返ってきて、龍之介が素っ頓狂な声を上げた。
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