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(寛げって言われても……)  どれもこれも高そうな家具ばかりで、汚してしまわないか心配になる。  悩んだ末に、幸人は背負っていたリュックを床に置き、絨毯の上にちょこんと正座した。 「なんでそんなとこ座ってんだ?」 「その、緊張しちゃって……汚したら責任取れませんし」 「言っとくけど、ソファよりそのラグの方が高いぞ」 「ひぇっ!」  幸人が飛び上がるようにして立ち上がると、ソファの上に移る。 「なんか飲むか? っても、お前が飲めそうなもんは水かお茶くらいしかねぇけど」 「全然、水道水で大丈夫っす……」  先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか、幸人は完全に借りてきた猫のように縮こまっている。  龍之介はミネラルウォーターを注いだグラスを二つ、ローテーブルの上に置いて、自分もソファに腰掛けた。 (明日辺り、ココアかなんか買っとくか)  普段から他人を家に招くことを避けているため、今客に出せる飲み物は、酒かミネラルウォーターだけだ。  二十歳を迎えていない幸人に酒は出せないため、必然的にミネラルウォーターしか選択肢がなくなる。  一応、人から貰った茶葉だのコーヒー豆だのがあるが、高カカオチョコレートのアイスを食べた時の反応を見るに、幸人は苦いものが苦手なのだろう。  コーヒーは論外、お茶に関しては龍之介に知識がないため、上手く淹れられる自信がない。 「こんなもんしかなくて悪いな」 「いえ、美味しいです」  美しい模様の入ったカットグラスを慎重に持ち上げて、幸人が口を付ける。  実家にあったコップと明らかに厚みや重さが違う辺り、これも高いに違いない。 「トイレは廊下に出てすぐと二階にあるから、好きな方使ってくれ。それと風呂沸かしてっから、先に入っちまえよ」 「家主を差し置いて、一番風呂を貰うわけには……」 「んなこと気にすんな。着替えは持ってんだろ?」 「あ、はい」  龍之介に聞かれて、幸人はリュックを手に取った。  中にはトラベルセットと、今着ているものと同じデザインの服とズボンが二着、下着が畳んだ状態で入っている。  ゴソゴソと荷物を取り出す幸人を見ていた龍之介が、呟くように言う。 「お前、マジで荷物が少ないな……」 「お寺では和服着てたし、このくらいしか手元に無くて」 「そういやお前の家、解体してたよな。他のもんは持ち出さなかったのか?」  半壊した家を思い出して龍之介が言うと、幸人が困ったように眉尻を下げる。 「あれ、婆ちゃんが死んでから勝手に決められてたんです。家の中のものは村長が全部持って行きました」 「はぁ?」  予想だにしない答えが返ってきて、龍之介が素っ頓狂な声を上げた。

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