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「なんか、建物の名義と相続がどうとかって言われて。村長の家で一緒に住もうって」 「お前、両親は?」 「婆ちゃんは俺が小さい時に死んだって言ってました」  榊朱鷺子は昨年亡くなったと聞いている。  ならばその当時、幸人はまだ高校生のはずだ。  身内が亡くなったばかりの天涯孤独の少年に、権利だの法律だのを突きつけてコントロールしようというのは、なかなかに悪質である。  今時、ヤクザでもそこまで阿漕な真似はしない。 「悪かったな、嫌なこと聞いちまって」 「いえ、大丈夫です。帰る場所がなくなったおかげで、村への未練もちょっとだけ減った気がしますし」  そう言って笑う幸人を見ていると、どうにも頭を撫でてやりたくなって、龍之介は手を伸ばした。  ガシガシと髪をかき混ぜれば、幸人が驚いたように目を閉じる。 「晩飯、何食いたい?」 「美味しいものならなんでもいいです」 「分かった、風呂入ってる間に用意しといてやるよ」 「龍之介さんって、お料理出来るんですか?」 「人並みにな。ま、楽しみにしてろって」  自信たっぷりに龍之介が笑った。 ◆◆◆◆  幸人を風呂に案内して、龍之介はダイニングキッチンへと立った。  まずは冷蔵庫を開けて、残っている食材を確認する。 (生ハム、クリームチーズ、トマト……確か、パスタがあったよな)  パントリーを確認すれば、未開封のパスタの乾麺を見つける。  他にも酒のつまみにと買っておいた缶詰やクラッカーも取り出して、調理台の端に置いた。 「よっしゃ、始めるか!」  腕まくりをすると、龍之介はシンクに向かった。  手を洗って、下準備に取り掛かる。  龍之介は料理が好きだ。趣味と呼んでも過言はない。  切って、煮て、焼いて、盛り付けを考える。  没頭している間は余計なことを考えなくて済むし、自分の作ったものを美味しいと言って貰えるのは嬉しい。  しかし不思議なもので、いくら料理が好きでも、一人暮らしだと途端にやる気が失せるのだ。  自分一人のためにわざわざ三日間掛けてビーフシチューを仕込むとか、油を用意して揚げ物を作るなんて手間のかかることも、いつの間にかしなくなってしまった。  ならば作った料理を誰かにおすそ分けでもしたらどうか、とも思ったが、家庭のある兄や和食党の龍蔵の元に持って行く気は起きない。  かと言って、原田は何を食わせてもあの調子で反応が薄く、他の部屋住み連中も手の込んだ小洒落た料理より、ガッツリと腹に溜まるものの方が喜ぶため、焼肉を奢ってやる方が有り難がられるのだ。  だからこそ、龍之介は張り切っていた。 (生ハムとチーズはカナッペにするか)  ボウルにクリームチーズとレモン汁、塩を入れて混ぜ、クラッカーの上に乗せる。  適量の生ハムをクルリと巻き、小さくカットしたハーブと共に飾れば、花が咲いたような見た目のカナッペが出来上がる。  その出来栄えに満足したように頷いてから、ふんわりとラップをして冷蔵庫に戻した。

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