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「ユキ、こっち来い」  素直に寄って来た幸人を椅子に座らせて、瓶を手渡す。 「なんですか? これ」 「髪乾かしてやるから、その間に思いっきりその瓶を振ってくれ」 「こうですか?」  幸人が瓶を片手に、シャカシャカと振った。 「そんなんじゃいつまで経っても終わらねぇぞ。五百回は振ってもらうからな」 「えぇー!」  不満げな声を上げた幸人の髪を、ドライヤーで乾かし直す。  そうすれば、観念したように幸人が瓶を振り始めた。 「お前、髪は伸ばしてんのか?」 「はい。職業柄、長い方が安心出来るので」  幸人の髪はサラサラとしているが、こうして注意深く指を通してみると、ヘアカラーの影響で若干の傷みが見受けられる。  龍之介は内心で、ダメージケア用のシャンプーを購入することに決めた。 「髪の毛って、霊力が溜まりやすいんですよ。だから、予備バッテリーみたいな感じで伸ばしておくんです」 「なら、霊能力者はみんな髪が長いのか?」 「いえ、必要ないくらい力が強い人もいますし」  幸人の言葉に、龍之介が感心したように返事をする。  霊能力者にもいろいろと事情があるらしい。 「これ、まだ振らなきゃダメっすか?」 「蓋開けてみろ」  言われた通り瓶を開けると、中の卵黄と調味料が合わさって、トロリとした液体になっていた。  龍之介はそこに少しだけ油を注いで、再び蓋を閉める。 「こっからが本番だぞ」 「そんなぁ! もう手が痛いんすけど……」 「美味いもん食うためだろ? ほら、頑張れ」 「うぅー……」  瓶を受け取った幸人は、やけくそといった様子で再び振り始めた。 ◆◆◆◆  ダイニングテーブルの上に並んだサラダとカナッペ、そしてパスタの皿を前に、二人はいただきますと手を合わせる。 「龍之介さんって、冷蔵庫にお水とお酒しか入ってないタイプの人なのかなって思ってたんすけど、全然違いましたね」 「なんだその偏見」  龍之介が言えば、幸人がクスクスと笑って、取り分けられたサラダを手に取る。 「俺、マヨネーズって初めて作りました!」  髪を乾かし終わってから、龍之介がパスタを完成させるまで。  数度に分けて油を入れながら振り続けた瓶の中では、マヨネーズが出来上がっていた。  市販のものよりも少しばかり緩いが、サラダの上にかけるには問題ない。  幸人は生まれて初めて手作りしたマヨネーズを、レタスやラディッシュと一緒にぱくりと食べる。 「すご、ちゃんとマヨネーズの味がする!」 「そりゃマヨネーズだからな」  楽しそうに笑う幸人を見て、龍之介もサラダを口に運んだ。  調味料の分量を計ったのは龍之介なのだから当たり前だが、ちゃんと美味しく仕上がっている。

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