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「これはなんて食べ物ですか?」
「カナッペだ」
「なんか、あだ名みたいな名前っすね」
幸人がカナッペを崩さないように慎重に持ち上げて、まじまじと眺める。
「これも龍之介さんが作ったの?」
「おう。……っても、チーズと生ハム乗せただけなんだけどな」
「それでもすごいっすよ! 俺、お肉でお花なんて作れないし」
こんな風に凝った見た目の料理は、村では一度だって出て来たことがなかった。
ぱくりと一口でカナッペを食べ、幸人が満足気に瞳を細めて頬を押さえる。
「おいひい! サクサクしててモチモチで……龍之介さんってお料理の天才ですか?」
「この程度で大袈裟だぞ」
そう言う龍之介だが、その表情はまんざらでもない。
瞳を輝かせながら食事を進める幸人を見ていると、自然と頬が緩んだ。
「このパスタもすっごく美味しいです! 俺、こんなの初めて食べました!」
「お前、今まで何食って生きてたんだよ?」
「肉と玉子以外のものは食べてましたよ。豆腐とか野菜とか、お菓子とか」
「肉はダメでお菓子はいいのか?」
「はい。神様が肉食を嫌うとかで、供犠は食べちゃダメなんです。お菓子を食べるのは仕事なんですよ」
ふふんと鼻を鳴らして、幸人が胸を張る。
お菓子を食べる仕事なんて、龍之介には商品開発くらいしか思い浮かばない。
だが、あの村にお菓子の製造工場があるようには見えなかったし、郷土菓子を売っていそうな店も見当たらなかった。
「そりゃ一体、どういう仕事なんだ?」
「厄払いです。厄をお菓子に移して、それを供犠が食べるんですよ! そうすると悪いことが起こらないんだって、村の外からも人が来るんです」
厄といえば、災いや病気などの悪いことだ。
現代でも厄年と呼ばれる、厄災に見舞われやすいとされている年齢や、立て続けに悪いことが起こった時などに、神社に厄払いに行く人間は少なくないだろう。
かく言う龍之介も、数年前に龍蔵の手配で厄払いを受けている。
だが、一般的には神主の祈祷によるお祓いが主で、人に自分の厄を食わせるという儀式は聞いたことがない。
村独特のものなのだろうが、あまり良い印象は受けなかった。
「お前、厄なんか食って平気なのかよ?」
「ちょっとお腹痛くなったりはしますけど……寝てれば治るから大丈夫です」
「それは大丈夫って言わねぇだろ……」
龍之介が額を押さえて深いため息をつく。
そこに住む住民に加え、外からやってきた人間を合わせれば、幸人にとって決して少なくはない数になるだろう。
厄のせいなのか、お菓子の食べすぎのせいなのかは分からないが、体調を崩すのも当たり前だ。
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