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◇
「えっと、龍之介さんもやってみます?」
その様子を見ていた幸人が、龍之介の顔色を窺うように言う。
「んなもん必要ねぇよ。自分の不幸をお前に押し付けてまで、幸せになんかなりたくねぇからな」
「なんでですか?」
「なんでって……」
「だって、みんなは喜んでました。病気も怪我もほとんどしなくなるから、ありがたいって」
瑠璃色の瞳が、真っ直ぐに龍之介を見ている。
幸人の表情からするに、本気で龍之介の言った意味が分からないのだろう。
「お前、言ってたろ。痛いのも苦しいのも嫌だって。わざわざ変なもん食って、腹壊す必要なんかねぇんだよ」
「でも、それが俺の役目で……」
「ここは村じゃねぇんだ。供犠なんて役目は忘れちまえ」
食事を再開した龍之介をしばらく見つめていた幸人が、考えこむように下を向く。
幸人にとって、供犠であることはアイデンティティであり、物心ついた時から、かくあれかしと望まれて生きてきたのだ。
忘れろと言われても、忘れ方が分からない。
「……どうしたら、忘れられるでしょうか」
「とりあえず、今は飯食え。腹いっぱいに美味いもん食って、これからやりたいことでも考えてりゃ忘れられるさ」
ぽつりと呟いた幸人に、楽観的に言って龍之介が笑った。
「お前、明日から忙しいぞ? 仕事用の服も買いに行かなきゃなんねぇし、兄貴に聞き込みもしなきゃいけねぇからな」
「え? 服ならありますけど」
「いいか? 第一印象ってのは見た目で決まるんだ。安っぽい服着たガキが霊能力者ですっつって、誰が信じる?」
容赦ない言葉の矢が突き刺さり、幸人が小さく呻く。
確かに、隣町で適当に見繕って来てもらったシャツやパーカーでは、格好がつかない。
霊能力者というのは、ただでさえ信用を得にくい仕事だ。
身なりをきちんとした方がいいという、龍之介の言葉にも一理ある。
「で、でも俺、あんまりお金ないですし……」
一応、朱鷺子が残してくれた金はあるのだが、額は大きくない。
今後のことを考えると、いざという時のために出来るだけ使いたくない、というのが幸人の本音だ。
「必要経費だ、こっちで出すから問題ない」
「そんな、悪いですよ!」
「チャンスと金づるは逃すな、だろ? 報酬の一部だと思って受け取ればいいんだ」
朱鷺子の言葉を引用されて、幸人が言葉を飲み込む。
少しの沈黙の後、観念したように頷いた。
「分かりました、貰っておきます」
その返答を聞いて、龍之介が嬉しそうに笑った。
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