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「はぁ……」  ソファに座った幸人が、深いため息をついて窓の外をぼんやりと眺める。  眼下には星空よりも眩い輝きを放つ夜景が広がっているが、今の幸人にはなんの感慨もない。  食事を終えた後、せめて皿洗いだけでもさせて欲しいと申し出たのだが、龍之介から返って来たのは「食洗機があるから必要ない」という言葉だった。  ならばと他に出来そうなことを探してみたのだが、リビングには数台のロボット掃除機が待機しており、トイレや浴槽でさえも自動洗浄機能が付いていた。  ハイテク家電が揃っているこの家では、自分の出る幕はないと悟って、大人しく寝支度をして今に至る。 「何かお礼がしたかったんだけどなぁ……」 「んなもん必要ねぇっつってんだろ」  背後からポンと頭を撫でられて、幸人が身をすくめる。  振り返れば、寝巻きに着替えた龍之介が立っていた。 「お前は客なんだから気にすんな。ほら、ついて来い」  言いながら、リビングの端に置いてある幸人の荷物を手に取る。  その足で二階へと向かう龍之介の後に続いて、幸人も階段を登った。 「ここがウォークインクローゼットだ。左半分が空いてるから、好きに使え」  龍之介の言う通り、ウォークインクローゼットの右半分にはさまざまな洋服が掛かっているが、左半分は空っぽだ。  ポールハンガーにリュックと帽子を引っ掛けてから、龍之介は隣の部屋へと足を向ける。 「そんでもって、こっちが寝室だ」  寝室に入って、一番に目についたのはキングサイズのベッドだ。  大人二人が横になってもまだ余裕のある広さに、手触りのいいシーツ。 「うわぁ、ふかふかだ!」  幸人が腰かければ、スプリングがぎしりと小さく音を立てて弾む。 「とりあえず、今日はこのベッドを使ってくれ」 「龍之介さんは?」 「俺はリビングで寝るから問題ない」 「ダメっすよ! さすがに家主のベッドを奪うのは悪いです!」  幸人が慌てて立ち上がる。  ただでさえ衣食住全ての面倒を見てもらっているのだ。  これ以上の迷惑をかけるわけにはいかない。 「俺、床でも全然寝られるんで!」 「客を床で寝かすわけねぇだろ」 「じゃあソファお借りします!」 「そういう問題じゃねぇ」  リビングに戻ろうとする幸人の首根っこを、龍之介が捕まえる。  どう説得したら大人しく寝室で寝てくれるだろうか? と考えを巡らせるが、良い案は思い浮かばない。  それに、龍之介を見上げる幸人の目が、絶対に譲る気がないことを物語っていた。 「…… じゃあ、一緒に寝るか?」 「へ?」  予想だにしていなかった言葉が飛んで来て、幸人が間の抜けた声を出す。 「このサイズなら、二人で寝ても余裕あるしな」  ベッドの両端に枕を置いて、龍之介が幸人を見た。  確かに端と端で眠れば、二人の間には十分な距離が空く。  どちらかの寝相が極端に悪くなければ、よっぽど干渉することはないだろう。

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