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(うぅ……なんか、味がよく分かんなかった……)  テーラーで服を注文した後、二人は少し早い昼食を食べに行ったのだが……。  買ったばかりの服を汚さないように、細心の注意を払っていた幸人は、食事を楽しむどころではなかった。  極度の緊張のせいで、何を食べたかもよく覚えていない。 「このまま兄貴のとこに向かうからな」 「あ、はい」  原田の運転する車は、静かに目的地へと向かう。  幸人は隣に座る龍之介を、ちらりと盗み見た。  スマホで何かを確認する横顔は、いつも幸人に向けられるものよりも、幾分か冷たい印象を受ける。 (知りたいなんて言われたの、初めてだ)  幸人には同年代の友達がいなかった。  村では供犠として特別扱いされ、子どもたちと一緒に遊ぶことも許されず。  通っていた隣町の高校では、得体の知れない宗教と関係していると噂が広まり、遠巻きにされていた。  村の老人たちは可愛がってくれたが、幸人のことを知ろうとはしなかった。 (俺も龍之介さんのこと、もっと知りたいかも)  龍之介は何をしたら喜ぶだろうか?  いつだって幸人に与え、優しくしてくれるこの人は、何をしたら怒るのだろうか?  ふいに切れ長の瞳と目があって、ドキリと心臓が高鳴る。  幸人は慌てて窓の外に視線を向けた。 「どうした?」 「な、なんでもないです!」  ドキドキと鳴る心臓に気づかれないように、小さく深呼吸をする。  そんな幸人の後頭部を見つめながら、不思議そうにしていた龍之介だったが、気を取り直して話し始めた。 「兄貴について情報を共有しとくな」 「オバケを信じない人、でしたよね?」  龍之介が頷く。 「先に謝っとくが……不快な思いをさせたら悪い」 「大丈夫です、慣れてますから」  ニコリと他人事のように笑う幸人を見て、龍之介は内心で苦虫を噛み潰したような気分になった。  霊能力者という存在に対する、世間の目がどれほど厳しいものかは理解出来る。  龍之介もほんの一日前までは、その他大勢と同じように、懐疑的な目を向けていたのだ。  後ろめたさを感じて、龍之介が幸人の頭をわしゃわしゃと撫でる。 「今回行方不明になった結奈は長女だ。弟の龍樹と父親の龍一郎と三人暮らし、母親は半年ほど前に病死してる」 「そうなんですか……」  何かを考えるように、幸人が口元に手を添える。 「お子さんを遺して亡くなった方って、わりと長い期間こっちにいる傾向があるんすけど……。龍之介さんから見て、その方はまだいそうですか?」 「……いるんじゃねぇか?」 「ですよね。お子さんまだ小学生ですもんね」  傷ましげに幸人が眉をひそめた。  どうやら幸人は子どもが心配で兄嫁が成仏出来ていないと解釈したようである。  もちろんそれも間違いではないだろうが……伴侶の死後、実兄がどうなったかをしかと目にした龍之介からしてみると、一番の成仏出来ない理由は龍一郎だろう。

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