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(あの頃の兄貴は荒れてたからな……)  残された子どもをシッターに任せ、何日間もほとんど眠らずに仕事に没頭していた姿を思い出し、龍之介がため息をついた。  周りの助力もあってようやく伴侶の死に向き合い始め、生活も落ち着いてきたと思ったらこの騒ぎである。 「義姉さん……真美っていうんだが。例え家で真美さんを見たとしても、兄貴の前では黙っててくれ。多分、激昂する」 「分かりました」  愛する人が成仏出来ず、現世をさまよっている。  そんなことを言われていい気持ちのする人間はいないだろう。  ましてや、霊的なものを一切信じない龍一郎のことだ。  インチキ霊能力者の懐柔手口だと判断されて、放り出されるかもしれない。 「まぁ、なんかあったら俺の後ろに隠れとけ」 「そうさせてもらいます」  頼もしく笑う龍之介に、幸人も口元を綻ばせた。 ◇◇◇◇  結奈の家は、よくある庭付き一戸建てだった。  龍之介がインターホンを押せば、少ししてドアが開き、強面の男が出迎えてくれる。 「お疲れ様です」  直角に腰を折って挨拶する男性も、少しばかり見慣れてきたな。なんて、幸人はぼんやりと考える。 「兄貴は?」 「和室でお待ちです」  玄関の脇に退き、若頭付きの男が道を開けた時だった。  龍之介は視線を感じて、ふと廊下の先を見る。 「ね……!」  義姉さん、と言葉が口をついて出そうになって、慌てて噤む。  そこに立っていたのは、まさしく半年前に死んだはずの兄嫁、真美だった。  死装束でも白いワンピースでもない、ごく普通の私服を身に纏い、まるで生きているかのような温度感でそこに佇んでいる。  真美がぺこりと頭を下げて、龍之介も小さく会釈をした。 「若?」 「……いや。行くぞユキ」 「はい」  何事もなかったように廊下を進めば、ぶつからないように真美が廊下の端に寄る。  そして、穏やかに笑って見せたのだ。 「来てくれてありがとうね、龍之介くん」  生前と変わらない声音。  透けておらず、血色もいい顔。  瞬きだってすれば、感情も感じられる。  これが幽霊だなんて、言われなければ気づけないだろう。 「そっちの子が霊能力者さん?」 「はい、よろしくお願いします」  普通に受け答えをして、幸人がぺこりと礼儀正しくお辞儀をする。 「こんなにかわいらしい子が来るなんて……まるでお人形さんじゃない!」  キラキラと瞳を輝かせて、真美が自らの頬に手を添えた。  どうやら、死んでも人の性格は変わらないらしい。 「そのお洋服も似合ってるわ」 「龍之介さんが選んでくれたんですよ!」 「あら……結構いい趣味してるのね、龍之介くん」  意外そうな視線を向けられて、思わず違うんだと反論したくなる。  しかし、玄関に立つ護衛役の男が、怪訝な顔をしてこちらを見ていることに気づいて、龍之介は咳払いをした。  見えていない者からしてみれば、今の幸人は大声で壁に向かって話しかけているように見えるのだろう。

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