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「義姉さん、そろそろ」 「あ……ごめんなさいね? 私ったら。誰かとお話し出来るなんて半年ぶりだから、つい舞い上がっちゃったわ」  ばつが悪そうに眉尻を下げて、真美が和室へと続く障子をすり抜けて、向こう側に消えた。 「なんつーか、死んでも変わらない奴もいるんだな」 「自分の死をちゃんと受け入れられてるからですよ」  幸人の言葉で、龍之介は駅で見た男の幽霊を思い出す。  記憶を失い、自分が死んだことも分からず彷徨うあの男と真美は、同じ幽霊でも全く違う。 「真美さんは成仏しようと思えば、今すぐにでも出来る人です。ただ、状況が状況だから……」 「あぁ。あの人のためにも、早くなんとかしないとな」  少しでも早く結奈を見つけて、安心させてやらなければならない。  幸人は内心で気合いを入れると、龍之介の後について、和室に足を踏み入れた。 「おう、兄貴! 相変わらず景気の悪いツラしてんなぁ」  ニヤリと笑った龍之介を、鋭い眼光が射止める。  そこにいたのは、眼鏡の男だった。  龍之介ほどガタイは良くないし、一見するとサラリーマンのように見えなくもないが、漂う空気感は一般人のそれではない。  にこやかとは程遠い表情をした男は、ただ一言「座れ」と発する。 「ユキ、コレが結奈の父親の龍一郎だ」 「はじめまして……榊幸人です」  龍一郎の向かいに正座をして、幸人がぺこりと頭を下げた。 「単刀直入に言う。私はキミのことを信用していないし、する気もない」  抑揚のない声がそう告げて、幸人に氷のように冷たい視線が突き刺さる。 「あ、はい。構いません。情報だけくだされば、こちらで勝手に調べます」 「なぜ信用出来ない相手に情報を渡さなければならない」  予想外の言葉が飛んできて、幸人がぱちりと瞬きする。  まさか、情報提供まで拒否されるとは思ってもいなかったのだ。 「コイツは爺さんの使いだ。その意味が分からねぇアンタじゃないだろ?」 「そうだな。あの人もついに耄碌したってことだ」  龍一郎の言葉に、龍之介がため息をつく。  龍蔵は家族であると同時に、二人にとっては上司だ。  その決定に逆らえば、少なからず角が立つ。  特に組の古株連中は、組長の善意を蔑ろにすることを快く思わないだろう。 「兄貴が霊だの超常現象だのを信じてないのは、重々承知の上だ。けど、結奈のためにも可能性があるなら賭けるべきじゃないのか?」  冷淡な兄ではあるが、不器用ながらも父親として子どもたちと向き合う努力をしている姿を、龍之介は何年も前から見ていた。  今も総力を上げて結奈の行方を追っているのだから、その愛情は本物だろう。 「お願いします、俺にもお手伝いさせてください!」  勢いよく頭を下げた幸人を、龍一郎は眉ひとつ動かさずに見た。

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