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「キミに何が出来るというんだ?」
「まず、霊的な存在に聞き込みが出来ます。生きてる目撃者はいなくても、幽霊とか神さまなら見てるかもしれません」
真剣そのものといった表情で、幸人が右手の人差し指を立てる。
それを見て、龍一郎が眉根を寄せた。
「次に犯人が霊的存在だった場合、俺なら追えます」
続いて中指を立てた幸人に、龍一郎が頭を抱える。
「本気か?」
「もちろん。俺にとっては、これが当たり前の世界ですから」
「頭の病院に罹ったことは?」
「あたま? ……えっと、病院はあんまり行ったことないです」
幸人がキョトンと首を傾げる。
その表情からして、何を言われたのか理解していないことは明白だった。
悪意を隠そうともしない龍一郎に、龍之介が抗議しようと口を開きかけた時だった。
空気の中から浮き出るようにして、真美が現れる。
「もう! 黙って聞いてればなんて失礼なこと言うのよ!」
怒りで眉をつり上げた真美が、龍一郎を叩こうと腕を振り上げる。
が、その手はするりと頭をすり抜けてしまった。
「今のって失礼だったんですか?」
ギャンギャンと夫に対して怒りを爆発させる真美を見ながら、龍之介に顔を寄せて幸人が小声で尋ねる。
答えるかわりに、黄色の後頭部をあやすようにポンポンと叩いてやった。
「言っておくが、コイツの力は本物だぜ」
「なぜお前にそんなことが分かる?」
「見たからに決まってるだろ? 幽霊って奴をさ」
ニヤリと挑発するように笑った龍之介を見て、龍一郎は大きなため息をつく。
どちらかと言えば、龍之介は幼い頃から現実的な人間だった。
霊的なものを見た、なんて冗談を言うような男ではないということは、実兄である龍一郎が一番よく知っている。
「やけに彼の肩を持つんだな」
「気に入ったからな。なんなら、このまま囲おうと思ってる」
幸人に慈しむような視線を向け、その髪を優しく撫でる弟を見て、いよいよ龍一郎は眉間を押さえて俯くしかなかった。
隣にいた真美も、驚いたように口元を押さえる。
囲うといえば、愛人にするという意味だ。
龍之介の性的嗜好をとやかく言うつもりはない。
しかし、一番の問題は小綺麗なその少年が、言葉の意味を理解していないように見えることである。
「お前……」
「知ってると思うが、俺は自分のもんを他人に傷つけられんのが一番嫌いだ。兄貴も言動には気をつけねぇと、人前に出られない顔になっちまうかもな」
にっこりと笑いながら釘を指す龍之介に、龍一郎の眉間の皺が延々深くなる。
両者の間にピリピリとした空気が漂って、幸人があわあわと二人を見比べた。
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