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「暴力反対です!」 「こんなもん暴力のうちに入んねぇよ。それより、どうするつもりだ?」  生命力を渡すことで、どれほど人体に影響が出るのか龍之介には分からない。  もしも幸人の命に関わるのなら、断固拒否するつもりだった。 「嫌ならやらなくてもいい、他の方法を探そう」 「でも、お仕事だし」 「仕事だからって自分を犠牲にする必要はねぇだろ? お前に何かあったら、結奈だって探せなくなるんだぞ」  龍之介が幸人の頭をポンと撫でる。  その表情を上目遣いに見ていた幸人が、おずおずと口を開いた。 「もしかして、心配してくれてます?」 「当たり前だろ」  眉間に寄った皺も、幸人を見る真剣な視線も。  あまり他人から心配された経験のない幸人にとって、少しばかりむず痒かった。  どう反応を返せばいいのか分からず、とりあえずえへへと照れたように笑ってから女に向き直る。 「あの、さすがに死んだりしませんよね?」 「もちろんですわ。私にも節度はありますもの、大事に至ることはないとお約束致します」  女が綺麗に笑って、幸人は小さく息をついた。  それから、覚悟を決めたように頷く。 「分かりました。ならいいですよ、使ってください」 「おい、本気か?」 「大丈夫です。俺、そんなに柔じゃないっすから! それに、ちゃんと約束もするし」  龍之介を安心させるように笑ってから、幸人は女が差し出した手を取った。  小声で二、三言葉を交わした後、今度は幸人が龍之介に向かって片手を差し出す。 「手を握ってください」  言われるままに、龍之介が幸人の手を取った。  何かあっても自分がついていると伝えるように小さく薄い手を強く握れば、幸人も控えめに握り返してくる。 「それでは、始めますね」  言って、女が瞳を閉じた。  その途端、三人の周りの景色が巻き戻る。  朝を迎え、夜を迎え……通勤、通学をする人々が後ろ歩きで去って行き、伸びていた草花がその丈を縮ませた。 「なんだこりゃ……」 「酔いそうなら、目を閉じておいた方がいいですよ」  呆気に取られた様子で、龍之介が周りの景色に忙しなく視線を向ける。  くすりと笑う幸人の顔が朝焼けに照らされたと思ったら、すぐに夜が訪れた。  それを何度か繰り返した後、夕暮れの公園で巻き戻しは終わる。  空はオレンジと紺が混ざり、もうすぐ夜が来ることを告げていた。 「これが、神隠し当日の様子です」  女が見つめる先では、数人の少女たちが集まって話をしていた。  その中によく知った顔を見つけて、龍之介は瞳を見開く。 「結奈……!」  思わず駆け出しそうになった龍之介の手を、幸人がギュッと握って引き留めた。 「これはあの人の記憶を元に再現した映像です。あそこにいる結奈ちゃんは、本物じゃないんですよ」  幸人の言葉に、龍之介は改めて少女たちを見た。  楽しげに笑い合う彼女たちは生き生きとしており、本当に目の前に存在しているように感じられる。  あれが映像だなんて、と龍之介は内心で思った。

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