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 その時、市の防災無線から夕焼け小焼けが流れ始める。  幸人と龍之介がポール時計を見上げれば、時計の針は十八時を差していた。  結奈と友人が別れ、その後の行方がわからなくなった時間である。 「それじゃ、また明日ね!」 「ばいばーい!」  手を振り合って、少女たちが公園の外へと向かった。  そのうちの一人が龍之介の方へと駆け出して、咄嗟に身構えたのだが……予想していた衝撃はない。  少女はまるで幽霊のように龍之介の体をすり抜けると、足を止めることなく去って行った。 「ね、映像でしょ?」  幸人が言って、龍之介はそうだなと頷いた。  非現実的でにわかには信じ難いことだが、認めざるを得ない。  今、自分の目の前で起こっていることは、現実ではないのだ。  公園内に一人取り残された結奈は、取り出したスマートフォンで何かを入力しているようだった。  恐らく、護衛に帰宅の旨を伝えているのだろう。  返信を確認し、小さくため息をついた結奈がベンチへと歩き出した時だった。 「こっちよぉ」  歌うように間延びした女の声が聞こえる。  芯のない、どこかぼやけたような印象の声だが、龍之介には聞き覚えがある気がした。 「ここよぉ」 (この声、どこかで……)  呼びかけに全神経を集中させて、記憶を探る。  普段から、こんな喋り方をしている知り合いはいない。  きっと、声質が似ているのだ。  考える龍之介の目の前で、呼び止められた結奈がギョッとした顔で足を止める。  そして慌てて周囲を見まわし、声の主を探し始めた。  その顔に浮かんでいるのは、緊張と期待だ。  ふと、結奈が一点を見つめて足を止める。  大きく見開かれた瞳の先を追って、今度は龍之介が驚く番だった。 「おい、待てよ。なんで義姉さんがここに……」 「こっちよぉ」  そこに立っていたのは、半年前に病死した結奈の母親。  見間違うわけがない、あれは真美だ。  背格好も龍之介がよく知る真美と一致している。  あんな喋り方をしているところは見たことないが、その声は真美の声だ。 「ママ……?」  震える声で呟いた結奈を前に、真美が慈しむような笑みを浮かべる。  そして、ゆっくりと大きく両腕を広げた。 「おいで」  瞬間、結奈が地面を蹴った。  一直線に真美に駆け寄り、広げた腕の中に飛び込む。 「ママ……ママぁっ!」  真美の胸に顔を埋めて、結奈が涙をこぼしながら何度も母親を呼ぶ。  側から見れば、それは感動の瞬間だ。  母と幼い娘の再会シーンは、事情を知らない人間からしてみれば、涙をそそるものだろう。  だが、真美はもう死んでいるのだ。  この世のものではない。

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