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「ママ、もっと早く会いに来てよ! 結奈、とっても寂しかったんだよ?」 「ごめんねぇ、結奈」 「結奈だけじゃないよ? パパもたっくんも寂しがってたんだから!」  まるで会えなかった時間を埋めるように、結奈が饒舌に話し続ける。  その間、真美は愛おしげに結奈の背中を撫でていた。 「龍之介さん、今何が見えてますか?」 「結奈が母親と……義姉さんと話してる」  目の前の光景を、幸人も一緒に見ているのではないのだろうか?  質問の意図が掴めずに、龍之介が幸人に目を向ける。 「じゃあ、俺に見えてるものを共有しますね。一度目を閉じて、俺の手に意識を集中してください」  分かったと答えて、言われた通りに目を閉じる。  幸人の口ぶりからして、どうやらお互いに別のものが見えているようだ。  どちらが正しいのか龍之介には分からないが、自分に見えている"真美が犯人である"という最悪の展開の方が、間違いであってほしいと願う。  真っ暗闇の中で、握った幸人の手に意識を向けた。  細い指に柔らかな手のひら。  じんわり伝わる体温が心地良い。 「いいですよ、目を開けてください」  幸人の声で目蓋を持ち上げた。  そして、龍之介は目の前の光景に言葉を失う。  引きずるほど長い痛んだ黒髪、乾燥して割れた皮膚。  痩せ細り、枯れ枝のようになった腕の先には、かぎ爪の生えた長い指がついていた。  薄くなり、裾の擦り切れた着物の上からでも分かるほど骨の浮いた背中を曲げ、結奈に覆い被さると、そいつは声を上げる。 「ゆな」  酷くしゃがれて、男か女かも分からない声が、結奈の名を呼んだ。  その姿も、声も、真美には似ても似つかない。 「なんだ、あれ……」 「神隠しの犯人です。どうやら、真美さんのふりをして結奈ちゃんに近づいたみたいっすね」  結奈は化け物を見上げて、嬉しそうに会話を続けている。  母親を恋しいと思う子どもの気持ちを利用して連れ去るなど、言語道断だ。  真美が亡くなってから、結奈は寂しさを堪えて気丈に振る舞っていた。  だからこそ、騙されているとも知らず幸せそうに笑う結奈を見ていると、怒りとやるせなさが胸に湧き上がる。 「どうして助けなかったんだ。アンタならなんとか出来たんじゃねぇのか?」 「神と名に付けど、所詮私は付喪神。零落しているとはいえ、自らの社を持つお方には敵いません」  苛立ちを隠そうともせず、龍之介が言葉を投げかければ、女が首を横に振った。 「なので私は、無駄死にするよりもあなた様方のような人間に伝えることを選んだのです」  女が綺麗に笑って、龍之介は内心で舌打ちする。  どこまでが本心で、どこまでが嘘か分からない。  単に面倒ごとに巻き込まれたくなかっただけかもしれないし、助けないという選択しか出来なかったのかもしれない。  どちらにせよそれ以上責めるわけにもいかず、龍之介は不機嫌そうに眉根を寄せる。

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