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 結奈がだらりと垂れ下がった化け物の指を握る。  一人と一柱が歩き出して、公園を出る直前にふっと消えた。  それと同時に、周囲の景色がどろりと溶け出す。  夕暮れが滲んで消えると、空には元の青が戻っていた。  どうやら、過去の再現は終わったらしい。  小さく息をついた龍之介の隣で、ぐらりと幸人の頭が揺れる。 「おい!」  間一髪、膝から崩れ落ちた幸人の体を龍之介が支えた。  覗き込めば幸人の顔色は青白く、苦しげに眉を寄せて浅い呼吸を繰り返している。  明らかに様子がおかしい。 「あら、私ったらはしたない。少し食べ過ぎてしまったわ」  一度ベンチで休ませようと、幸人を抱き上げた龍之介の耳に女の声が届く。  顔を上げれば、頬に片手を当てた女がうっとりと二人を……否、幸人を見ていた。 「テメェ……初めっからこれが狙いだったな?」 「それは誤解ですわ。私は何があったのか、あなた様方にお見せしたかっただけ。……ただ、あまりにもその子が美味しいから」  女の顔は、明らかに呼び出されたばかりの時と違っている。  人形のような整った笑みは鳴りをひそめ、代わりに欲望に濡れた表情で、深いため息をついた。 「瑞々しくて甘酸っぱい、熟れた果実にも似た芳醇な味わい……。嗚呼、贄を欲しがる方々の気持ちも理解出来ますわ」  女が頬に手を当てて、思い返すように目を閉じる。  その様子を警戒しながら見ていた龍之介は、この場をどう切り抜けようか頭をめぐらせていた。  腕の中でぐったりと身を預ける幸人が、自力で逃げることは不可能だろう。  龍之介が守りながらなんとかするしかない。  しかし、相手が何をしてくるかも分からないのだ。  それこそ時を止めるだの巻き戻すだの、予想だにしない方法で攻撃を仕掛けて来る可能性もある。 (ただ、コイツは付喪神だ)  一つだけ分かっているのは、公園内から出てしまえば、女は追いかけてこられないだろうということだ。 「龍之介、さん……」  弱々しい声に名前を呼ばれ、龍之介は女から目を離さないようにして一歩後ずさった。 「おう、無事か?」 「なんとか……」 「これから逃げようと思うんだが……。なんかいい案ねぇか?」 「大丈夫です。これ以上は、手を出せませんから」  幸人の言葉に、女が残念そうに首を縦に振る。 「その通り。あんな約束、しなければ良かった」  贄がこんなに美味しいなんて、思いもしなかったわ。と女が呟いた。  その声にはどこか拗ねたような響きがある。 「ねぇ、その子をここに置いて行くつもりはありませんこと?」 「んなことするわけねぇだろ。結奈の件は礼を言うが、少しでも妙な動きをすれば容赦しねぇからな」 「まぁ怖い」  女が口元に手を当ててクスクスと笑う。

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