57 / 100

「ん……」  幸人が小さく声を漏らして、より深くに舌を差し込む。  途端、龍之介の背筋をゾクリとした何かが這い上がった。 (目的はこれか……!)  まるで力を吸い取られているような感覚が、龍之介を襲う。  鳩尾がヒヤリと冷えて、若干の落ち着かなさを感じた。  それでもここで幸人を突き放すわけにもいかず、ジッと耐える。 「……ぷはっ!」  しばらくすれば、幸人は名残惜しそうに龍之介から離れた。  キスをしていた間、息を止めていたのだろう。  荒い呼吸が耳につく。 「もういいのか?」  龍之介は濡れた口元を拭いながら、幸人に尋ねた。 「はい……。すみません、ありがとうございました」  言いながら、幸人が眉尻を下げて笑う。  まだ辛そうではあるが、キスのおかげかその頬には少しだけ色が戻って来ていた。 「龍之介さんは? 辛くないっすか?」 「俺? 別に、なんともないが」  心配されるようなことは何もなかった。  体が痛むこともなければ、幸人のように体調が悪くなってもいない。  キスをしている間は奇妙な感覚があったが、それもすでに消えている。  ケロッとした龍之介を見て、幸人が目を丸くして驚いた。 「生命力を奪われると、少なからず体に影響が出るはずなのに……」 「なるほど、今のキスで俺の生命力を吸い取ったってわけか?」 「そうなんです。龍之介さんのこと、食べちゃいました」  幸人が「えへへ」と誤魔化すように笑ってから、上目遣いに龍之介の表情を伺う。  どうやら、龍之介に説明もなく生命力を奪ったことに、少なからず負い目があるらしい。 「……怒ってます?」 「緊急事態だったんだろ? それでお前が助かるなら、キスくらいいくらでもしてやるよ」  幸人の前髪をかき上げると、露わになった額に口付ける。  くすぐったそうに笑った幸人を見て、龍之介は内心胸を撫で下ろした。  人より生命力が強いと言われても、いまいち実感が湧かなかったのだが……こうして幸人の役に立ったのならそれでいい。 (キスの練習は必要だがな)  ムードもへったくれもない口付けを思い出して、龍之介が笑う。  もっとも、幸人にとってはただの捕食行為だったのだから、キスが下手でも仕方がない。  だが、今後もする機会があるのなら、楽しい方がいいだろう。  幸人に"教育"を施すことを決めた龍之介の前で、女がポンと両手を合わせる。 「生命力の供給が出来るなら……お二人揃って私のものにしてしまえば、好きなだけその子を味わうことが出来るということよね?」 「殴るぞ」 「嫌だわ、ジョークなのに」  拳を握り締めながら睨む龍之介を見て、女がうふふと楽しそうに笑った。

ともだちにシェアしよう!