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◇
「ん……」
幸人が小さく声を漏らして、より深くに舌を差し込む。
途端、龍之介の背筋をゾクリとした何かが這い上がった。
(目的はこれか……!)
まるで力を吸い取られているような感覚が、龍之介を襲う。
鳩尾がヒヤリと冷えて、若干の落ち着かなさを感じた。
それでもここで幸人を突き放すわけにもいかず、ジッと耐える。
「……ぷはっ!」
しばらくすれば、幸人は名残惜しそうに龍之介から離れた。
キスをしていた間、息を止めていたのだろう。
荒い呼吸が耳につく。
「もういいのか?」
龍之介は濡れた口元を拭いながら、幸人に尋ねた。
「はい……。すみません、ありがとうございました」
言いながら、幸人が眉尻を下げて笑う。
まだ辛そうではあるが、キスのおかげかその頬には少しだけ色が戻って来ていた。
「龍之介さんは? 辛くないっすか?」
「俺? 別に、なんともないが」
心配されるようなことは何もなかった。
体が痛むこともなければ、幸人のように体調が悪くなってもいない。
キスをしている間は奇妙な感覚があったが、それもすでに消えている。
ケロッとした龍之介を見て、幸人が目を丸くして驚いた。
「生命力を奪われると、少なからず体に影響が出るはずなのに……」
「なるほど、今のキスで俺の生命力を吸い取ったってわけか?」
「そうなんです。龍之介さんのこと、食べちゃいました」
幸人が「えへへ」と誤魔化すように笑ってから、上目遣いに龍之介の表情を伺う。
どうやら、龍之介に説明もなく生命力を奪ったことに、少なからず負い目があるらしい。
「……怒ってます?」
「緊急事態だったんだろ? それでお前が助かるなら、キスくらいいくらでもしてやるよ」
幸人の前髪をかき上げると、露わになった額に口付ける。
くすぐったそうに笑った幸人を見て、龍之介は内心胸を撫で下ろした。
人より生命力が強いと言われても、いまいち実感が湧かなかったのだが……こうして幸人の役に立ったのならそれでいい。
(キスの練習は必要だがな)
ムードもへったくれもない口付けを思い出して、龍之介が笑う。
もっとも、幸人にとってはただの捕食行為だったのだから、キスが下手でも仕方がない。
だが、今後もする機会があるのなら、楽しい方がいいだろう。
幸人に"教育"を施すことを決めた龍之介の前で、女がポンと両手を合わせる。
「生命力の供給が出来るなら……お二人揃って私のものにしてしまえば、好きなだけその子を味わうことが出来るということよね?」
「殴るぞ」
「嫌だわ、ジョークなのに」
拳を握り締めながら睨む龍之介を見て、女がうふふと楽しそうに笑った。
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