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「ん……」  幸人が小さく声を漏らして、より深くに舌を差し込む。  途端、龍之介の背筋をゾクリとした何かが這い上がった。 (目的はこれか……!)  まるで力を吸い取られているような感覚が、龍之介を襲う。  鳩尾がヒヤリと冷えて、若干の落ち着かなさを感じた。  それでもここで幸人を突き放すわけにもいかず、ジッと耐える。 「……ぷはっ!」  しばらくすれば、幸人は名残惜しそうに龍之介から離れた。  キスをしていた間、息を止めていたのだろう。  荒い呼吸が耳につく。 「もういいのか?」  龍之介は濡れた口元を拭いながら、幸人に尋ねた。 「はい……。すみません、ありがとうございました」  言いながら、幸人が眉尻を下げて笑う。  まだ辛そうではあるが、キスのおかげかその頬には少しだけ色が戻って来ていた。 「龍之介さんは? 辛くないっすか?」 「俺? 別に、なんともないが」  心配されるようなことは何もなかった。  体が痛むこともなければ、幸人のように体調が悪くなってもいない。  キスをしている間は奇妙な感覚があったが、それもすでに消えている。  ケロッとした龍之介を見て、幸人が目を丸くして驚いた。 「生命力を奪われると、少なからず体に影響が出るはずなのに……」 「なるほど、今のキスで俺の生命力を吸い取ったってわけか?」 「そうなんです。龍之介さんのこと、食べちゃいました」  幸人が「えへへ」と誤魔化すように笑ってから、上目遣いに龍之介の表情を伺う。  どうやら、龍之介に説明もなく生命力を奪ったことに、少なからず負い目があるらしい。 「……怒ってます?」 「緊急事態だったんだろ? それでお前が助かるなら、キスくらいいくらでもしてやるよ」  幸人の前髪をかき上げると、露わになった額に口付ける。  くすぐったそうに笑った幸人を見て、龍之介は内心胸を撫で下ろした。  人より生命力が強いと言われても、いまいち実感が湧かなかったのだが……こうして幸人の役に立ったのならそれでいい。 (キスの練習は必要だがな)  ムードもへったくれもない口付けを思い出して、龍之介が笑う。  もっとも、幸人にとってはただの捕食行為だったのだから、キスが下手でも仕方がない。  だが、今後もする機会があるのなら、楽しい方がいいだろう。  幸人に"教育"を施すことを決めた龍之介の前で、女がポンと両手を合わせる。 「生命力の供給が出来るなら……お二人揃って私のものにしてしまえば、好きなだけその子を味わうことが出来るということよね?」 「殴るぞ」 「嫌だわ、ジョークなのに」  拳を握り締めながら睨む龍之介を見て、女がうふふと楽しそうに笑った。

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