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1-12. 果報は寝て待て
「あの、自分で歩けるので降ろして下さい」
「まだ本調子じゃないんだろ? 大人しくしとけ」
連絡を受けた原田がやって来ると、龍之介は軽々と幸人をお姫様抱っこしてみせた。
突然の浮遊感に驚いて、思わず龍之介にしがみ付いた幸人だったが、すぐに控えめに声を上げる。
しかしそのお願いは、一考の余地もなく却下されたのだった。
「家に向かってくれ」
後部座席に幸人と乗り込んだ龍之介が言って、原田が短く返事をする。
ゆっくりと走り出した車を、公園の出入り口に立つ女がにこやかに見送った。
「龍之介さん、用意して欲しいものがあるんですけど……」
「まさか、まだ仕事をする気か?」
龍之介が眉をしかめる。
先ほどよりもよくなったとはいえ、幸人の顔には疲労の色が浮かんでいる。
今日はもう休んだ方がいいだろう。
「大丈夫です、明日の準備をするだけなので」
「本当だな? 絶対に無理はするなよ」
渋々といった様子で龍之介が言って、幸人は頷いた。
◆◆◆◆
帰宅一番。
幸人はソファにうつ伏せで倒れこむと、目を閉じた。
付喪神に文字通りの意味で力を貸すのは、今回が初めての経験だ。
念のため言霊での約束をして、最悪の事態を避けられるようにはしたのだが……生命力を奪われるのは想像していた以上にキツかった。
龍之介のおかげで多少回復はしたが、まだ目の前がふわふわし、吐き気もある。
「ユキ、寝るなら着替えてベッドに行けよ」
「寝ません、ちょっと休憩するだけっすから」
そう答えつつ、幸人が緩慢な動きで起き上がった。
誰がどう見ても、今の幸人は無理をしている。
龍之介が紙袋の中から衣服を取り出すと、幸人の隣に腰掛けた。
「ついでにパジャマも用意した。こっちの方が楽だと思うぞ?」
手渡された上下揃いの寝巻きは、サテン生地で出来ている。
触れてみればサラサラとしていて、確かに手触りがいい。
「でも、原田さん来るんですよね?」
「アイツはお前が何着てようと気にしねぇよ」
「俺が気にします!」
口を尖らせた幸人の髪を、龍之介が指ですく。
「お前に生命力を渡す時は、必ずキスしなきゃいけないのか?」
「そういうわけじゃないっすけど……。えっと、生命力っていうのは、体液に乗って全身を行き来してるんです」
どう説明したものかと難しい顔をしつつ、幸人が口を開く。
「唾液、血液、精液なんかは特に生命力がたくさん宿ってて……さっきは龍之介さんの唾液から力を貰いました」
「なら、血液を舐めてもいいのか?」
「はい。なんなら、血液は唾液よりも生命力が濃いんで。血を貰う方が効率はいいんすけど……なんかちょっと、嫌じゃないですか?」
幸人が眉をしかめた。
指先を切って血液を舐める程度で済むのか、吸血鬼のように首筋に噛みつき、ゴクゴクと飲まなければならないのかは分からない。
ただ、想像するにすごい絵面であることは確かだ。
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