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「確かに、吸血よりはキスの方がいいな」 「でしょ? 俺も血なんて飲みたくないですし」  口に広がる鉄の味を想像して、幸人が嫌そうに舌を出す。 「思ったんだが、俺からお前に生命力を渡すことも出来るのか?」 「やってみなきゃ分からないですけど……力を流し込むって意識しながらキスをすれば、出来るんじゃないっすか?」  そう答えた瞬間、幸人の視界がぐるりと回る。  背中に当たるソファの感触と覆い被さる龍之介を見て、押し倒されたのだと気付いたのは数秒後のことだった。 「だったら試してみようぜ」 「キスを、ですか?」 「それ以外に何がある?」  龍之介が至近距離で勝ち気な笑みを浮かべて、幸人は見る見るうちに赤くなった。  心臓がドキドキと音を立てて、慌てて顔を背ける。 「だ、大丈夫です! 俺はもう平気だし、龍之介さんだってあんまり力を使うと、どんな症状が出るか分かりませんし!」 「心配すんな、そんなに柔じゃねぇよ。それに、いざって時のために練習しといた方がいいだろ?」  なんとか龍之介を押し退けようとするが、幸人の腕力ではびくともしない。  それどころか頬に手を添えられて、強制的に龍之介と視線を合わせることになった。 「さっきはあんなに積極的だったじゃねぇか」 「あれは仕方なかったから……!」  言い訳をしようとした幸人の口を、龍之介が塞ぐ。  薄く開いた唇を強引に割り開きながら、ぬるりと舌が侵入してきて、幸人はギュッと目を瞑った。 (なに、これ……)  歯列をなぞられ舌先で上顎をくすぐられると、無意識のうちに鼻から抜けるような声が漏れてしまう。  その上、すぐに溢れんばかりの生命力を注ぎ込まれて、幸人は必死になってそれを飲み下した。  冷えた体の芯に熱が戻ってくる。  吐き気も収まり始めたが、キスのせいで満足に呼吸も出来ない。  苦しげに眉根を寄せた幸人が龍之介の厚い胸板を叩けば、ようやく解放された。 「はっ、はぁ……」  酸素を求めて大きく呼吸を繰り返す幸人の瞳は潤んでおり、頬は薄紅に染まっている。  ぼやけた視界の先で、龍之介が意地悪く喉を鳴らして笑うのが分かった。 「どうだ? 上手く出来たか?」  龍之介の指が幸人の濡れた唇をなぞる。 「なんなら、もう一度してやろうか?」  その言葉を聞いて、幸人がぶんぶんと首を横に振った。 「も、いいです……成功しましたから」 「本当か? でも、さっきより顔が赤いぞ?」 「これは龍之介さんのせいです!」  わざとらしく言った龍之介を、幸人が涙目で睨みつける。  その表情があまりにも可愛らしくて、龍之介は思わずくつくつと笑ってしまった。 「なんだ、大人のキスは初めてだったのか?」  ちゅ、と目尻にキスを落とせば、幸人がぷいと横を向く。 「ち、違います……高校の時に一回だけ、したことありますし」 「どんな奴と?」 「同級生です」  といっても、先ほど龍之介にした生命力を吸い取るためのキスなのだが。  そのうえ件の同級生は、急速な生命力の減少が元で意識を失い倒れている。  この出来事を語れば、また龍之介に子ども扱いされてしまうだろう。  幸人は詳細を伏せておくことにした。 「へぇ、そりゃ妬けるな」 「え、待って……!」  龍之介が幸人のズボンに手をかけて、慌てて声をあげる。  しかし、制止もむなしくずるりとズボンを下ろされてしまった。 「なんだ、キスだけで勃っちまったのか?」  幸人のものは、下着越しでも分かるほど固くなっている。 「だ、だって! あんなの初めてで……!」  龍之介の言葉と視線に耳まで赤くなった幸人が、股間を隠そうと手を伸ばした。  だが、手首を掴まれて遮られてしまう。

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