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◇
シャワーを浴びて、幸人は真新しい寝巻きに袖を通す。
サラサラとしたそれは肌触りが良く、着心地も抜群だった。
(さっきは恥ずかしかった……)
リビングに戻って来た幸人は、ソファに座りながら小さくため息をつく。
まさか、再び龍之介とキスをすることになるとは思ってもいなかったのだ。
それも、あんな風に力を注がれたうえ、龍之介と互いの股間を触り合うことになるなんて……。
(でも、気持ちよかった)
無意識のうちに、幸人が自身の唇をなぞる。
公園で自分からキスをした時。
やむを得ない状況だったとはいえ、不思議と龍之介に口付けることに嫌悪感はなかったのだ。
そしてさっきのキスも、手淫も嫌だとは微塵も感じていない。
龍之介のゴツゴツとした手が敏感な部分を這う感覚を思い出して、幸人がみるみる赤くなる。
そして、記憶を頭の中から追い出そうと、ぶんぶん首を横に振った。
「何してんだ?」
「な、なんでもないっす!」
幸人の次にシャワーを浴びていた龍之介が、リビングに顔を出した。
清潔なシャツを羽織った龍之介は、幸人の様子を見てクスリと笑う。
それから小さな箱を片手にソファに腰掛けると、幸人の前髪をくしゃりとかき上げた。
「顔色、良くなったな」
「龍之介さんがたくさん力をくれたおかげです」
そう答えれば、龍之介は愛おしげに何度か幸人の髪をすいた後、手にした箱を差し出す。
「爺さんからのプレゼントだ」
手渡された長方形の箱をまじまじと見ていた幸人だったが、龍之介に促されて箱を開ける。
中に入っていたものを見て、瑠璃色の瞳が輝いた。
「スマホだぁ!」
生まれて初めてのスマートフォンを手にとって、幸人が嬉しそうに観察する。
裏を見て、表に返して、両脇に付いたボタンに触れた。
すると、画面が光ってアプリの並んだホームが表示される。
「ひとまず必要なアプリはダウンロードしておいたし、保護フィルムとケースも着けてある」
「ありがとうございます!」
通話の仕方やメッセージの送り方など。
使い方の説明をする龍之介の声に、幸人が頷きながら耳を傾ける。
辿々しくスマートフォンを操作する幸人を微笑ましく見守っていると、インターホンが鳴った。
「原田が来たみたいだな」
ポンと一つ幸人の頭を撫でてから、龍之介が玄関へと向かう。
モニターに映し出された原田の姿を見て、龍之介が声をかけた。
「ご苦労さん、荷物持って上がって来てくれ」
「……はい」
一瞬、驚いたような表情をしたが、原田は素直に頷いて荷物を持って画面から消える。
数分もしないうちに、エレベーターの扉が開いた。
「お疲れ様です」
両手にいくつも荷物袋を提げた原田が、龍之介に頭を下げる。
「これで全部か?」
「はい」
「そうか。ならリビングまで頼む」
その言葉に、いつも無表情な原田が目を見開いた。
龍之介が他人を家に上げないことは、部屋住み連中の間でも有名な話だ。
若頭補佐や親しい間柄の女性であっても、徹底して貫いてきたその決まりごとが、いとも簡単に破られたことに驚く。
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