64 / 100

 シャワーを浴びて、幸人は真新しい寝巻きに袖を通す。  サラサラとしたそれは肌触りが良く、着心地も抜群だった。 (さっきは恥ずかしかった……)  リビングに戻って来た幸人は、ソファに座りながら小さくため息をつく。  まさか、再び龍之介とキスをすることになるとは思ってもいなかったのだ。  それも、あんな風に力を注がれたうえ、龍之介と互いの股間を触り合うことになるなんて……。 (でも、気持ちよかった)  無意識のうちに、幸人が自身の唇をなぞる。  公園で自分からキスをした時。  やむを得ない状況だったとはいえ、不思議と龍之介に口付けることに嫌悪感はなかったのだ。  そしてさっきのキスも、手淫も嫌だとは微塵も感じていない。  龍之介のゴツゴツとした手が敏感な部分を這う感覚を思い出して、幸人がみるみる赤くなる。  そして、記憶を頭の中から追い出そうと、ぶんぶん首を横に振った。 「何してんだ?」 「な、なんでもないっす!」  幸人の次にシャワーを浴びていた龍之介が、リビングに顔を出した。  清潔なシャツを羽織った龍之介は、幸人の様子を見てクスリと笑う。  それから小さな箱を片手にソファに腰掛けると、幸人の前髪をくしゃりとかき上げた。 「顔色、良くなったな」 「龍之介さんがたくさん力をくれたおかげです」  そう答えれば、龍之介は愛おしげに何度か幸人の髪をすいた後、手にした箱を差し出す。 「爺さんからのプレゼントだ」  手渡された長方形の箱をまじまじと見ていた幸人だったが、龍之介に促されて箱を開ける。  中に入っていたものを見て、瑠璃色の瞳が輝いた。 「スマホだぁ!」  生まれて初めてのスマートフォンを手にとって、幸人が嬉しそうに観察する。  裏を見て、表に返して、両脇に付いたボタンに触れた。  すると、画面が光ってアプリの並んだホームが表示される。 「ひとまず必要なアプリはダウンロードしておいたし、保護フィルムとケースも着けてある」 「ありがとうございます!」  通話の仕方やメッセージの送り方など。  使い方の説明をする龍之介の声に、幸人が頷きながら耳を傾ける。  辿々しくスマートフォンを操作する幸人を微笑ましく見守っていると、インターホンが鳴った。 「原田が来たみたいだな」  ポンと一つ幸人の頭を撫でてから、龍之介が玄関へと向かう。  モニターに映し出された原田の姿を見て、龍之介が声をかけた。 「ご苦労さん、荷物持って上がって来てくれ」 「……はい」  一瞬、驚いたような表情をしたが、原田は素直に頷いて荷物を持って画面から消える。  数分もしないうちに、エレベーターの扉が開いた。 「お疲れ様です」  両手にいくつも荷物袋を提げた原田が、龍之介に頭を下げる。 「これで全部か?」 「はい」 「そうか。ならリビングまで頼む」  その言葉に、いつも無表情な原田が目を見開いた。  龍之介が他人を家に上げないことは、部屋住み連中の間でも有名な話だ。  若頭補佐や親しい間柄の女性であっても、徹底して貫いてきたその決まりごとが、いとも簡単に破られたことに驚く。

ともだちにシェアしよう!